リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

on the way
~道に迷うことこそ道を知ることだ~

好きなだけでなく2人の生き方そのものでもある謎解きを結婚式に。
迷いながらもその道のりで答えを見つけるプランニングこそ壮大な謎解き

安川 美香子(やすかわ みかこ)さん
(千葉県 浦安ブライトンホテル東京ベイ)

花嫁着付の勉強をしていた頃、アルバイト先のレストランで、時では珍しい人前式を目にしたことがブライダルとの出会い。以降、29年間ホテルウェディング一筋。

ただ好きだからと入れるのではなく
謎解きを結婚式に組み込むための納得度の高い意義をとことん求めて

 来館の際、謎解き付き宿泊プランの案内板に新婦が反応したことから、2人共通の趣味である謎解きを式に取り入れることに。まずは組み込む意義を探すことからスタートです。話を聞くと、謎解きはいつも2人のそばにありました。「感動的な式より、ゲストに楽しんでもらう式に」という2人。2人が楽しみ方を知っている謎解きなら最適です。それによって2人らしさを出すことも可能に。でも私はさらに納得度の高い意義を求めることにしました。より2人を理解するため、通常より早い段階でプロフィールシートを書いてもらうと、理想の家庭像の欄に「悩みは2人で話し合って一つずつ解決していきたい」という一文が。まさに謎解き!

 謎解きは、2人の生き方そのものだったのです。ただ好きなだけでなく2人の人生を表すもの。それは十分な意義でした。ここから謎解きは、2人が望むからではなく「本当の意味で2人らしい式にするために私が絶対やりたいもの」に変わりました。

謎解きを抜きにしても素敵な式を。
新婦が笑顔で当日をスタートできるよう、事前に工夫も

 とはいえどう組み込むかの案はなく、2人はイベント会社への外注も検討。しかし所要40分と聞いて私は問いました。「やりたいのは謎解きイベントですか? 結婚式ですか?」そこから「あくまでも結婚式。それを邪魔せず楽しめる謎解き」と線引きができ、「料理や動画に謎やヒントは組み込まない」とのルールも決まりました。

 謎解きの楽しさは【探す→見つける→気づく→想像する→ゴールに導く】というステップにあると、私なりに解釈。それを意識したプランニングを始めます。ゲストが自分宛ての封書を見つけるところからスタート。謎解きに招かれたと気づいてもらいます。謎は2⼈にまつわる、この結婚式ならではのもの。謎を解くとQRコードが完成し、2人の動画にアクセスできる仕組みです。メッセージが浮かび上がるキャンドルも採用。謎解きのヒントも隠し、一人ひとりに合わせた花言葉で感謝も伝えられるようにしました。一貫して大切にしたのは、おもてなしを損なわず、謎解きがなかったとしても素敵な結婚式として成⽴させること。⼀⽅謎解きは、この日このメンバーでなければできないものに仕上げていきました。

 一方、新婦から伺っていた家族に対する感情。それを無理に変える必要はないけれど、当日少しでも気持ちが和らげば…と、1カ月前の挙式リハーサルにご両親も呼び、当日もチャペルで異例のファミリーミートも敢行。牧師様の話に安心し、心の準備も整えられたことで、当日は笑顔で父と入場する新婦の姿が。2人から教えてもらった謎を解く鉄則「迷ったら最初に戻る」がプランニングと共通していると気づいて打ち合わせ内容を振り返り、まだ私にやれることがある、と気付いたからこそ、できたことでした。

ゲストには結婚式にまつわる謎解きを自由なタイミングで楽しんでもらいたい。謎を解くにつれ2人の思いを感じられるように演出しました。

プランニング≠難解な謎解き。
2人の人生の縮図のような結婚式をつくるべく、進む過程に価値がある

 結婚式はいまや、夫婦・家族としての道の途中で行われるもの。だからこそ単に好きなものを入れるだけでなく、夫婦のいつもの姿や生き方が伝わる結婚式が求められるのではないでしょうか。謎解きとプランニングはよく似ています。けれどプランニングには⽤意された正解やゴールはありません。それは⼈⽣も同じ。正解がないからこそ2人の中にある答えを⾒出し、プランナー自身が納得して導くことが⼤切だと思います。そのために探り、⾒つけ、気づき、想像し、導き…を絶えず繰り返す。時に迷い躓きながらも、⽬の前のお客様のために何ができるか考え続けることで、プランナーの道は⾃ずと拓けるのではないでしょうか。結局のところ、答えはその道のりにある。道に迷いながらもただひたすらに、進む過程に価値がある。これが今の私の最適解です。

あえてゲストの目に触れない場所での親子の時間を作り、当日は笑顔で記念品の贈呈ができました。

評価のポイント

大好きな「謎解き」を結婚式に取り入れたいという新郎新婦の要望をただ安易に取り入れるのではなく、安川さんはおふたりの結婚式に取り入れる意味に徹底的向き合われていました。「謎解き」の構造を丁寧に捉えながら、そのプロセスや考え方に注目をし、結婚式と「謎解き」の本質的な要素を相互に掛け合わせてゆく。大ベテランでありながらも、常に学び続ける安川さんの、磨き抜かれたプランニングの妙技が美しく輝いていました。