リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

時間旅行 ~凧になりたい~

二人のどんな要望も、意味のないものはない。
根底には、これまでの人生が必ず関わっている。

高橋 芽衣(たかはし めい)さん
千葉県・浦安ブライトンホテル

プランナー歴8年。2年連続でクリエイティブ賞を受賞。どんな考えに対しても、先入観をもたずに接客に臨み、難しい要望にも何とかできる方法を考え提案していくようにしている。引き出しを増やすため、「常にアンテナは高く、幅広く」がモットー。

次々と繰り出される奇抜な要望。その意味合いを探っていく。

 明るくユーモアがあり、想像力豊かな新郎と、小学校の先生で、そんな新郎を優しく諭す新婦。柔らかい雰囲気の中にも強い意思をお持ちの二人から、次々と繰り出される、あまりに奇抜な要望とその数の多さに、最初は圧倒され、正直困惑しました。しかし二人のこれまでについてお聞きし、さらに要望の意味合いやストーリーを探るために、とことん話し合う中で、二人の本当の思いが見えてきました。それは珍しく、変わった演出をたくさんやりたいのではなく、本当に大切な方々と一緒にその時代、その時間、瞬間を共に振り返り、共に思い、共に楽しみ、心に強く残したい。そうすることで、今までの感謝を伝えたい、という思いでした。私はそれがまるで現在から過去、過去から現在といろんな時間を旅しているみたいだなと思い、新郎新婦には披露宴中に時間旅行を思い切り楽しんでいただくことにしました。そしてこれを軸に、難しい要望も実現方法を考え、プランニングすることを心に決めました。

新郎の一番の思い出「浜松祭り」を表現。祭りの紹介映像と親族によるラッパ演奏で、凧になった新郎が若手の親族に担がれ、一気にお祭りムード。そのまま新郎中座につなげることで、唐突な表現ではなく、一連の動きに意味を持たせるようにした。

二人の要望を9つの時代にわけ、共に楽しむことで、ゲストと時間を共有。

 まずは二人の要望をゲストに合わせて9つの時代にまとめ、各時代に合わせた楽しみ方を考えていきました。それぞれオリジナリティ溢れるものにすることで、その一つ一つをゲストの心に残し、新郎新婦には、現在と過去をランダムに進行に組み込むことで、各時代、時間を旅するように楽しんでもらうことにしました。  たとえば、新婦の教師生活では、新婦は教え子からのメッセージ映像をサプライズで上映。学生時代は、それぞれの友人と楽しむ時間をつくり、新郎は風船に入った友人に再入場を先導してもらい、新婦はブーケプルズを行いました。甥姪との時間は、子どもたちからお花を新婦に渡してもらい、新婦のブーケに。また、二人の大切な瞬間、富士山頂上でのプロポーズでは、ウエディングケーキを富士山型にし、巻物を使ってプロポーズの様子を再現しました。校長先生との時間では、その日で定年退職される校長先生への感謝を込めたプレゼントを、兄との時間では、お兄さんが作った有機栽培の大根をメインディッシュに組み込み、日頃の感謝を伝えました。

プロポーズは富士山頂。富士山型のケーキを前に、二人が紐を引くと巻物がほどけ、山頂にプロポーズのシーンが現れる。

「凧揚げをしたい」に秘められた、親族への深い感謝の思い

 最も頭を悩ませた要望、それは「凧になりたい」です。最初は凧揚げをしたいと新郎に言われ、不思議に思いましたが、実はその根底には、親族への深い感謝の思いがありました。幼い頃にお母様をなくした新郎は、お父様の実家である静岡県浜松市の親族にとてもお世話になっていたそうです。その時の一番の思い出が、浜松祭。その年に生まれた長男を祝って凧揚げをするお祭りで、新郎自身も祝ってもらった経験があり、それを胸に今まで生きてきた。この凧揚げの思い出をゲストとともに楽しみ、感謝を伝えたい。そんな思いです。
 とはいえ、凧揚げは物理的に無理なので、考えた末、新郎自身が凧になることをご提案。新郎の弟が作ってくれた模造紙大の凧を新郎が背負い、若手の親族に担いでもらって、それを新婦が引くということになりました。当日は浜松祭の様子を映してイメージをつくった上で、掛け声とラッパ演奏の中、凧になった新郎が会場を練り歩き、一気にお祭りムードに。新郎の幼少時代を親族とともに思い、楽しみ、感謝を伝えられた演出となりました。
 これまでの時代、時間があるからこそ、今日がある。それを実感した上で、ラストは未来を見つめ、感謝を伝えることをポイントに、エンディング映像を流し、新婦のピアノ演奏と新郎の唄で締めくくりました。二人は音楽を奏でながら、時間旅行から現在へと戻り、未来へのスタートをきったのです。

本当の思いを理解することが二人らしい結婚式につながる

 今回の結婚式を通して、新郎新婦の意向の根底には、これまで生きてきた人生が関わっているということを実感しました。そしてそれを探り、二人の本当の思いを理解することが、二人らしい結婚式につながるということも改めて認識しました。だからこそ、無理難題でも、簡単にできないと否定せず、要望を叶えるために、どうにかしてできることを考え、プランニングしていく。それがプランナーの役割だと思います。またそんな二人の思いや背景をパートナーやスタッフと共有することも大切だと思っています。

審査員の目

 新郎新婦の難しい要望に対し、単に現実的な代替案ではなく、その意味をとことん考えての提案だからこそ受け入れられ、かつ二人が元々思いもしなかったような効果を結婚式にもたらしました。これが本当のクリエイティビティなのではないでしょうか。二人の人生の物語を描き出す、その創造性に満ちた演出力が高く評価されました。(2012年10月22日更新)