リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Find Happiness ~しあわせの見つけ方~

式と披露宴の枠を超え、2人の大切なことを優先させた結婚式。
プランナーの情熱に心動かされたスタッフと幸せを見出した2人。

杉本 里佳(すぎもと りか)さん
ホテル雅叙園東京(東京都)

ウエディングプランナーを志し、ホテル雅叙園東京へ新卒で入社。宴会部での現場経験を経て、その後ブライダルへ。モットーは「人の幸せを誰よりも喜べる人」になること。癒されるプラネタリウムが大好きです。

2人が一番大切にしたいことを根気強いやり取りからキャッチ
必死で模索した叶えるための策

 会場見学に来られたのは、終始明るいお2人。しかしドレスを試着した新婦の寂しそうな笑顔を見て、私は涙しました。その晩、決めかねている理由が書かれた新郎からのメールが。一つは予算。もう一つは肉親がいない新婦の、ご親族の参加がないことでした。「雅叙園を諦めきれない」という新郎の言葉が胸に刺さり、2人の願いを実現したい気持ちが溢れました。

 まずは予算問題をクリアすべく19パターンの見積もりを作成。しかし「予算より大切なことがあるのでは?」と思い、よく話を聞きました。20回以上のやり取りで引き出せたのは、「お世話になった方たちの笑顔が見たい」「でも家族がいないことは知られたくない」という2人の想いでした。肉親がいないことに気づかれず、たくさんの人に祝福してもらうには…を考え抜き、「挙式は大勢を招き、披露宴は親しい方のみで会食」を提案。2人も目を輝かせ、当館での式を決めてくれました。その晩届いた新婦からのメールには、初回に涙を流してくれた杉本さんに会わなければ、結婚式は挙げなかった」と書かれていました。上司に頼み、私は2人の担当になりました。

2つの願いを果たすアイディア
同僚の寛容なバックアップで実現困難な案が次々クリアに

 挙式では違和感を持たれぬよう、通常はご家族が座る最前列を、大切なご友人の席にすることを提案。叶わぬ夢と思われたベールダウンは新郎のお母様が、バージンロードを歩くのは新郎のお父様がすすんで協力を申し出てくれ、当日は、まるで実の親子のような温かい空気に包まれました。

 ゲスト全員が出席するのは挙式のみなので、「全員笑顔の結婚式」を叶えるため、挙式と披露宴の間に待合室でケーキカットをすることに。しかし前例がないだけに司会進行やスタッフの配置をどうするかなど、初施行前の私では考えが及ばない様々な問題に突き当たりました。雅叙園は一日何十組もの結婚式を行うため、全体のペースを乱すイレギュラーな動きはご法度です。けれど先輩や元部署の宴会スタッフに相談すると、「お前がやるべきと思うならやろう」と温かく承諾してくれ、親身なアドバイスまで。涙が出ました。私は2人の想いや経緯を詳しく資料に書き込んで渡しました。

新婦にとって叶わぬ夢だったベールダウンも、『新婦の願いを叶えたい』という新郎お母様と実現。まるで実の親子のような、温かい笑顔と愛情いっぱいのシーンに。

熱意がスタッフの心を動かし
スタッフの想いが2人に伝わる多くの力が作る幸せな結婚式

 迎えた当日。ケーキ入刀の会場には、予算の都合で装花を用意できなかった2人のために宴会スタッフが飾った、たくさんの折り鶴が。聞けば「オーダーシートを見て涙が出た。自分たちも何かしたかった」と。胸が熱くなりました。指示するだけでは、人の心は動かない。でも理由と想いをしっかり伝えれば、共感してもらえるんだと実感し、このメンバーと結婚式を作れる喜びを感じました。

 式後、2人からいただいたお礼のメールに綴られた、スタッフ一人ひとりの名前宛の感謝の言葉。スタッフの想いも2人に伝わっていたことを知り、あらためてたくさんの人の力が合わさって一つの結婚式ができることを痛感しました。雅叙園のコンセプト「幸せを呼ぶ日本の彩り」の通り様々なカップルがいて、2人が選ぶことすべてに様々な想いが込められています。そう感じることができた、貴重な結婚式でした。

 プランナーは、人の幸せに介在できる稀有な存在です。だからこそ、これからも新郎新婦の喜びや悲しみに敏感でありたい。人の幸せを誰よりも一緒に喜べる人となれるよう、お客様に寄り添って素敵な結婚式を作っていきたいと思います。

挙式と披露宴の間に待合室で行ったケーキカット。前例がなく様々な問題に突き当たりましたが、理由と想いをしっかり伝えることでスタッフの心を動かし、実現できました。

評価のポイント

 この時、杉本さんはまだ初施行前で、お二人は2組目に担当するお客様。それでも臆することなくイレギュラーの相談ができたのは、ルール以前に「お客様のために最善を尽くしたい」というご自身の強い想いが伝わり、周囲を動かしたから。スタッフ一人一人が自分ができることを考え動くことで、新郎新婦にとって全員の顔が見える結婚式となりました。新婦のふとした表情に涙を零す共感力と諦めない強さ、誰もがずっと持ち続けたい力です。