人数の縮小が、プランナーの力の縮小になってはいけない。
家族が持つ「手」の力を表現し、2人の未来へとつなげる。
「つながったご縁」を大切にして、人生に寄り添うことがモットー。結婚式をきっかけに、式後も、些細なことでも2人とのやり取りを続けている。今では過去に担当した2人の子どもとも、友だち。
100名から10名への規模縮小
2人の妥協と私の後悔からスタートした、家族だけの結婚式
「本当に、申し訳ございません!」
2人の結婚式は、私の謝罪から始まりました。打合せ初日までの5カ月間、何のフォローもできておらず、「家族10名での結婚式にします」と言わせてしまったからです。私たちに相談できないまま、100名の結婚式の縮小を決断した2人。さぞ辛かったことでしょう。連絡すれば延期やキャンセルの相談になるかもしれない、という会場よがりな憶測が、この事態を招きました。
喜んでもらえる提案を! と意気込んだものの、結婚式への諦めからか言葉が少ない2人。でも、コロナ禍で妥協した結婚式しかできなかった、と思ってほしくはありません。10名でも、100名の結婚式より魅力的なものにしたい…。
でも実は、私には少人数ウエディングへの苦手意識がありました。大規模な結婚式と違い、提案の幅が狭く、時間もマンパワーもかけられないと感じていたからです。とはいえ、人数の縮小がプランナーの力の縮小に比例してはいけない。規模の縮小が相次ぐ中そう気づき、この結婚式にしっかり向き合おうと決めました。
ずっと家族をつないできた「手」
2人が好きな魔法の世界を通じて手が幸せへと導く、温かい結婚式
この時、私自身も結婚式を控えており、昔のアルバムを開きながら、両親の「手」がいつも私を幸せに導いていたと気づきました。更に思い出したのが、「魔法の物語が好き」という2人の話。「魔法を通じて、家族の手が持つ不思議なパワーを伝えたい」と話すと2人は大喜び。提案のたびに、私との距離が縮まっていきました。
当日は、さまざまな仕掛けで魔法の世界を演出しました。突然時が止まって料理を運ぶスタッフが静止し、杖を振ると、お料理がスタート! 2人の手でケーキに魔法をかけたり、祝福の歌を歌うお祖父様が天国から映像でよみがえったり。司会者の魔法で時間が巻き戻り、2人の生い立ち映像も映し出されました。
クライマックスは、家族全員で手をつなぎ、直接触れ合って「手の力」を感じるシーン。直に触れると、言葉以上の想いが伝わるはず。これまで幸せに導いてきた手から伝わる温もりは、この先も2人を支える力になったことでしょう。
- 必ず実現したかった、家族全員で手を繋ぐシーン。コロナが心配でしたが、2人は「やりましょう!」と即断してくれました。10分の1の規模縮小ではあったものの、絆が深まる温かい結婚式に。
結婚式の大きさとプランナーの介在価値が比例してはならない
どんな選択にも寄り添い導きたい
後日2人から頂いた手紙には、家族婚となり、正直気持ちが落ち込んでいたこと、けれどさまざまな提案に結婚式が楽しみになり、当日も本当に楽しかったことが書かれていました。また「これまで家族の手からもらっていた力を、いつか子どもに伝え、この手で守っていきたい」という言葉ももらいました。当日の満足だけでなく、その先の2人の人生につながる結婚式となったのです。私が提案した「魔法」は、あくまでサブテーマ。一番伝えたかった「幸せに導く手から生まれる、家族の力」というコンセプトは、2人に届いていたのだと感じました。
祝福してほしいサイズ感は、その2人によって違います。でも祝福してほしい想いはきっと同じ。だからこそ結婚式の規模の大きさと、プランナーの介在価値が比例してはなりません。介在のしかた一つで、少人数でも楽しく、未来につながる結婚式は創れると学びました。本当に大切なのは、人数ではなくどんな時間を共有するかということ。
時代の変化で、結婚式のニーズは多様化しています。私は、どの形を選んだかにかかわらずすべての新郎新婦に寄り添い、この手で導き続けたい。2人とゲストだけでなく、2人の人生に存在する多くの人々にまで届けたくなるような結婚式を創り続けます。
- 多くのスタッフが協力してくれて、実現することができた「魔法」がテーマの結婚式。退場後、「幸せの魔法をかけてもよいですか?」と魔法の杖を振ると、大勢のスタッフが現れて祝福の拍手に包まれるという演出も。
評価のポイント
家族だけの結婚式は会食中心になりがちですが、ゲストとどんな時間を過ごしたいかによって、テーマウエディングにも大きな可能性があります。それを遠ざけているのは、もしかしたら「小規模だから」という我々の思い込みなのかもしれません。ふたりの未来にとってどんな時間が必要なのかを考え抜き、枠をはめない松浦さんのプランニングスタンスこそが、価値観も結婚式のスタイルも多様化する今の状況にとても重要なものなのだと感じます。