リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Remember-想いが交差する日-

臨機応変に温度感と空気を読むからこそ作れる、心の通った結婚式。
「余白」とはすばらしい結婚式を生み出すための、可能性そのもの。

徳永 彩奈(とくなが あやな)さん
ブランレヴュー宇都宮アクアテラス(栃木県)

モットーは「生きた結婚式を創ること」感性を研ぎ澄ませて、音を奏でるようにカタチにすることを心がけています。今、この瞬間を楽しみながら、仲間と創る結婚式当日が一番好きな時間です。

理想的な仲良し家族で育った新婦と幼少期より家庭不和だった新郎。
対照的な両家をつなぐ家族婚とは

コロナを理由にキャンセルしたいとおっしゃる2人。家族婚を提案したところ快諾していただき、14名の結婚式を行うことになりました。2人には、この選択が正解だったと思ってほしい。そんな想いから、全てを練り直しました。

あらためてヒヤリングすると、仲良し家族の新婦と、ご両親が別居されている新郎という、対極の家庭環境が見えてきました。「昔は仲がよかったのに、物心ついてから父とは腹を割って話したことがない」と寂しそうな新郎。家族婚だからこそ伝えられる言葉や想いがきっとあるはず。この日を機に家族の絆を取り戻してもらえたら、とご家族に2人が幼い頃の思い出を語ってもらうことに。しかし新郎に「お父様にも伝えてほしい」と頼んだところ、答えはNOでした。

その場の温度感を大切にするための「余白」。
細やかな配慮に呼応してお父様に少しずつ芽生えた変化

私はあえてこの結婚式に、「余白」を作りました。8割をプランニングし、残りの2割は何も決めないまま。余白があればこそ、当日の温度感を見ながら臨機応変に対応できて、心の通った結婚式が作れると思ったからです。それにはスタッフの協力が必要。プロとして当日現場の様子一つ一つに神経を配り、ゲストとの密なコミュニケーションを大切にしてほしいと仲間に伝えました。こうして不安を抱えながらも、迎えた当日。

素っ気ない態度のお父様に不安は募りましたが、心を開いてもらうべく、新郎の代弁者として積極に話しかけました。「ユーモアのあるお父様と聞いています」「京都旅行が楽しかったそうですよ」の言葉に、少しずつ表情が緩んでいろいろ語ってくれるお父様。私はその話を挙式で語ってほしい、と迫りました。なんとか引き受けていただくことに成功! しかし挙式では無難に語ってくれたものの、植樹式では家族と距離をおいて立つお父様の姿に、「何も変わらなかった」と私は落ち込みました。

披露宴に入り、ご家族に2人の思い出話を語っていく時間に。同じ質問にご両親が想いをめぐらせることで、忘れかけていた仲良し時代を想起したのか、ご両親の温度差が少しずつ縮まります。表情が和らぎ、周りにも積極的に話しかけるお父様。明らかに何かが変わりました。

良い結婚式とは、心が通う結婚式。それぞれの想いが交差し、心が繋がる。普段は言えない本音が伝わり、お互いの気持ちを知ることができる一日。その時間が、心の結びつきをより深くしてくれるに違いありません。

父と息子、父と母。それぞれが見つけた、家族としての新しい絆。これぞ心が通う結婚式が紡いだ奇跡

結びの時間、お父様から思いがけない謝辞が。新郎を生んでくれたお母様への感謝と、「いい嫁さんもらったな! 俺ほどではないけどな」という言葉。お父様は大粒の涙を流され、新郎も号泣でした。フィナーレでは、14人でキャンドルリレー。炎が家族の手から手へと渡り、ここに集う全ての人の心に幸せの灯がともりました。キャンドルにふたをすると、2人からの感謝の言葉が浮かび上がる仕掛けが。感動の瞬間です。お見送りが始まってもゲストは涙を流し、誰一人として立ち上がれません。こんな経験は初めてでした。式後には、新郎の両親が肩を組んで笑いあう姿もありました。

良い結婚式とは、心が通う結婚式。それぞれの想いが交差し、ゲストひとり一人の心が繋がる。私は結婚式だからこそ伝えられる言葉や想いがある、と思います。普段は言えない本音が伝わり、お互いの気持ちを知ることができる一日。その時間が、心の結びつきをより深くしてくれるに違いありません。

私たちが作らなければならないのは、単なる結婚式ではなく、幸せな夫婦の土台です。私はこれからも、仲間とともに最高の瞬間を生み出していこうと思います。その先に、想像を超えた奇跡のような結婚式があることを信じて…。

お父様から思いがけない謝辞が。新郎を生んでくれたお母様への感謝と、「いい嫁さんもらったな!」という言葉。お父様は大粒の涙を流され、新郎も号泣でした。

評価のポイント

コロナ禍で増えた家族婚で、少人数ならではの工夫が多く生まれていますが、この「余白」もそのひとつ。もちろん大人数の婚礼でも有効ですが、1人1人の表情や空気感にしっかり気を配れる少人数婚こそ、その真価を発揮するといえるでしょう。ただ何も決めないのではなく、スタッフを巻き込み、柔軟に動けるよう態勢を整えるのは、通常のオペレーションを越えた高度なスキルが必要。徳永さんの指揮者として卓越したスキルあってこその結婚式でした。