リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

隠し事をするのはもう辞めた。結婚式を通して、この人生で良かったと叫べる人に。

結婚式は「この人生で良かった」と、自分を肯定してもらえるような
機会になることが プロデューサーとしての大きな願い。

大谷 亜沙美(おおたに あさみ)さん
IWAI OMOTESANDO(東京都)

祖父のお葬式に集まった600人もの人を前に、祖父の人生の終え方に感動する。そこから『死ぬそのときに人生で最大のお祝いを』をミッションに掲げ、人生のエッセンスに気付くきっかけとなる結婚式を作っている。

苦しみや葛藤をさらけ出した先に新しい人生が始まる。結婚式をそんな一日にしたいという想い

IWAIでは最初の打ち合わせで3時間かけて、2人の人生の全てをお聞きします。今回ヒアリングの中で、新郎は幼少期に両親が離婚、新婦は子どもの頃から両親が不仲で、双子の妹とも敵対という闇が浮き彫りになりました。ここで踏み込まなければ、本音は出ません。全てを受け止めるつもりで、話を聞きました。誰にも言えない家庭環境のコンプレックスを抱える新婦が放ったのは、「これ以上隠し事をして生きるのは嫌。大切な友人に、本当の私を知ってもらいたい」という涙ながらの言葉。私は心が震え、その勇気を無駄にしない結婚式を作ることを決意しました。

“苦しみをさらけ出すからこそ人生に光を当てることができる”そう思えるのは、私自身の体験からでした。家族を疎ましく思い、自分の生い立ちが嫌いなまま大人になった私。けれどまず“自分の過去を好きになろう”そう思った瞬間、諦めていた人生が輝き始めたのです。ほかの誰かにもこの瞬間をそんな想いで、私はこの仕事を始めました。

結婚式は晴れ舞台。けれどあえて闇を引き出すことで、その先にある真の光が2人を照らすのだと感じました。

妹の手紙と新郎の感謝の言葉、そして人生を隠さず綴った映像。さらけ出すことで生まれたもの

まず私は、新婦の人生を包み隠さず言葉で綴った、文字のみの映像を作りました。ゲストに知ってもらうためだけでなく、自分自身の闇は打ち明けてこそ愛せるものだと思ったからです。これを見た新婦は、ゲストにも見てもらおうと決断。人生をさらけ出す覚悟を決めた新婦に、双子の妹様に手紙を読んでもらうことも提案しました。ギリギリまで考え抜かれて当日の早朝やっと届いた妹様からの手紙。そこには比べられ続けた末に仲が悪くなった経緯と、それでもずっと一緒に生きてきたという想い、最近一番身近な理解者だと気づいたことが書かれていました。妹様もまた自身をさらけ出し、姉妹の距離を近づけたのです。

新郎もまた、父の再婚で当初はなじめなかった家族関係を乗り越え、反抗期の自分とも向き合い続けてくれた母への感謝を、ファーストミートで伝えることができました。コロナの不安から挙式前に退席する予定だったご両親。しかしこの時間に心を動かされ、私が熱意を込めてお伝えした「出席してほしい」という提案を承諾してくれました。晴れて出席に。

家族との確執を含む人生を綴った映像は、パーティの冒頭に上映。主役の人生をゲスト全員で受け止めて過ごす結婚式にしたいと思ったからです。最初に私は、新婦がこのゲストの皆さんだからこそ知ってほしいと話してくれたことを伝えました。上映後、自然と生まれる会話。2人のもとに駆け寄る人……。ただただ2人とゲストの関係が深まることを願い、その他の演出はしませんでした。

「隠し事のない関係が幸せ。この人たちをこれからも大切にしようと思いました。また今までの人生を肯定することができ、自分を好きになれました」と語ってくれました。

あらためて人生を振り返って肯定し、大切な人との関係も深められる結婚式は自分を好きになるきっかけ

式の後、2人はゲストを含めた65人と会い続けたそうです。「母が亡くなった」「実は病気を患っている」など友人たちも心の闇を明かしてくれ、関係がより深いものに。新婦は「隠し事のない関係が幸せ。この人たちをこれからも大切にしようと思いました。また今までの人生を肯定することができ、自分を好きになれました」と語ってくれました。

結婚式は晴れ舞台。けれど、あえて闇を引き出すことで、その先にある真の光が2人を照らすのだと感じました。結婚式は、自分の人生を肯定し、自分をもっと好きになるきっかけになるものだと、私は心から信じています。これからも結婚式が、愛に満ちた世の中を作る機会となりますように。そして自分の人生を愛しながら、人生を終える人があふれますように。そう願ってやみません。

評価のポイント

結婚式という場が持つ意味もまた多様化しつつある今、感謝を伝える、祝福を受けるためだけでなく、「自分や自分の人生を好きになるための結婚式」があっても良い、むしろそのような機会が今後より必要になると感じます。しかし人生をさらけ出し、そこにゲストの気持ちを巻き込む場づくりには高度なプランニング力が必要。ライフストーリーを綴り、「引き算」も使いながらその場を作り上げた大谷さんの力あってこそ、この「祝い」の場が実現しました。