リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

THIS IS IT

2人の要望に寄り添い、踏み込み、
その先へと導くまでをプランニング。
大切なのは説得ではなく
自身の気持ちに気づいて納得するようリードすること。

仁藤 奈甫子(にとう なおこ)さん
aedam wedding(静岡県)

2019年&2021年GWAファイナリスト。結婚式と宇宙兄弟が大好き。最近はプラネタリウムを使用してのウエディングフォトに奮闘中!結婚式を通して日本中を幸せでいっぱいにしていきたいです。

傷つけられた辛い過去を持つ新婦
やっと結婚へと踏み出したもののコロナで思い描いていた式を断念

新婦は5歳から日本に来たブラジル人。若くして結婚したものの、辛い離婚を経験。またこれまで国籍への差別や偏見で数多く傷つき、「日本人と本当の家族になんてなれるの?」という想いを持っていました。けれど新郎の両親に会った時、「国籍なんて関係ない。君は君だよ」と受け止めてもらえたことで、この人たちと家族になりたいと思えたのだそう。結婚を決意し、ブラジルでの盛大な結婚式を計画するもコロナで断念。弊社チャペルを見て「ブラジルの大聖堂に似ているから、ここなら我慢できそう」という言葉には、妥協が感じられました。2人の要望通り挙式のみで進めることはもちろん可能。またブラジルでの結婚式に近づけたものにすることもできます。でもそれは本物ではありません。いずれにしても「コロナで理想の結婚式が挙げられなかった」という思い出になってしまうのでは?と私は葛藤しました。

目指したのは、「愛にあふれた結婚式」。2人の愛、家族愛、国境やジェンダーを越えた愛……。それらの愛のカタチを、そこにいるすべての人と共有できるような結婚式です。

2人が愛と感謝を届け、ゲストもたくさんの愛をと祝福を贈る結婚式
諦めで曇っていた2人が輝く一日に

コロナ禍だからこそ、心の深くまで入り込むことが必要です。さらなるヒアリングで見えてきたキーワードは、家族。2人とも理想の夫婦は両親で、新郎のおばあ様が結婚式を一番楽しみにしていること、LGBTQの新婦の妹にパートナーと列席してほしいけれど、新郎の家族の反応が気がかりなことがわかりました。これらを聞いて、2人には挙式のみの結婚式ではなく、家族と過ごす披露宴が必要だと思い、本来挙げるべき結婚式のスタイルに2人自身の気持ちが向くよう、導きました。目指したのは、「愛にあふれた結婚式」。2人の愛、家族愛、国境やジェンダーを越えた愛……。それらの愛のカタチを、そこにいるすべての人と共有できるような結婚式です。

挙式に向けて心を作ってもらうため、受付では全員に、2人との思い出アルバムをプレゼント。ブラジルでは挙式前に花嫁の姿は誰にも見せませんが、親御様にも心を整えてもらうべく、感謝を伝えるファミリーミートを実施。新婦の弟様、おばあ様も感涙で、この機会を設けたことで挙式に全集中してもらえました。メニューはあえてブラジル料理のみ。食を通じてブラジル愛を深めてもらいます。ケーキを運んだ妹様カップルには、ケーキの上段をカットすると、LGBTQを象徴するレインボーカラーが登場するサプライズを。これは、みんなが2人を受け入れているという証。新婦が2人の幸せを祈っていることを伝えると、拍手が鳴りやみませんでした。「素敵な時代になったね」と感激する新郎のおばあ様。ふたをするとメッセージが浮かび上がるキャンドルに火を灯し、2人はさらに愛と感謝の想いを重ねます。

妹様カップルには、ケーキの上段をカットするとLGBTQの尊厳を象徴するレインボーカラーが登場するサプライズを。これは、みんなが2人を受け入れているという証。

人を愛して大切にする2人だからできた、愛のカタチが見える式。
原点に返ると結婚式は愛そのもの

別々だった2つの家族は、退場時には1つの家族になっていました。国境や文化、風習の違いを越え、ジェンダーの壁も超えて、肩を組みながら2つの国旗を掲げた披露宴直後の集合写真。そこには目に見えない多様な愛のカタチが、はっきりと写っていました。2人の諦めに寄り添っただけの結婚式では、実現できなかった写真。新婦からは「理想の結婚式」と言っていただけました。

カタチがないはずの愛が、そこにいる人全員にはっきり見える。そんな日は、結婚式以外にありません。今後さらに多様化する結婚式。私たちプランナーが2人のストーリーを受け止め、未来を思い描き、愛にあふれた結婚式をたくさん作り出すことができれば、日本中がもっと幸せと優しさで溢れると信じています。

評価のポイント

様々な事情に翻弄されるコロナ禍だからこそ、2人が本当に望むことが何か、心の底を探りあて、本人も意識しない想いを引き出すことが求められます。ただ寄り添うのではなく、導く。説得するのではなく、納得を引き出す。仁藤さんの覚悟に満ちた導きがあったからこそ実現した結婚式。「愛」という言葉が抽象的でもなく、白々しくもなく、実体を持って心に響くことに驚かされ、国籍も年齢もジェンダーも越えて人を結ぶ結婚式の可能性を強く感じました。