2人だけのものではなく、家族の想いものせる結婚式
そこには不可能を可能に変える工夫と家族も喜ぶ演出が
20代でホテルブライダルの支配人を経験し、現在はゲストハウスでチーフプランナーとして『ウエディングの素晴らしさ』をお客様や後輩に日々伝えています。『宇宙兄弟』がマイブームで宇宙旅行が夢です。
若い2人の純粋な希望を叶えるため不可能を可能にするコストダウン作戦
20歳の2人が、「急な妊娠で資金もないけど、結婚式できますか?」と突然現れました。いろいろ調べて「結婚式はするべき」とわかった反面、詐欺まがいのキャンペーンの存在も知り、芽生えた不信感。それでも勇気を出して来場した2人の「ドレスを着てみんなに祝福されたい」という純粋な願いを、私は叶えたいと思いました。
大学時代アメリカで参列した結婚式は、自由で幸せなものでした。大学内での挙式、自宅でのパーティ、家族と友人がつくるケーキや装飾…。そんな結婚式をつくりたくてプランナーになったことを、2人に出会って思い出した私。そこから、結婚式に対する固定概念が取り払われました。
2人の希望は、「ドレスを着せてあげたい」「みんなに祝福してもらいたい」。しかし最大のネックは予算です。夢を実現するため生演奏の人数を最低限にし、司会は支配人が担当。衣装は廃止された格安プランを適用してもらいました。またブッフェスタイルにして、友人たちが参加しやすい1万円の会費制に。徹底的にコストを削減し、不可能を可能に変えました。
お母様の不安な様子を知り家族みんなが喜ぶ結婚式に
その矢先、不満顔で新郎のお母様が突然ご来館。費用や会費制バイキングへの不信感…すべてお答えしましたが、怪訝な顔で帰られたお母様を見て私は、お金や形式面の不安だけではく、若いご子息の急な結婚への戸惑いと心配が大きいのだと感じました。この結婚式はご家族にとっても「よかった」と思えるものにしなければ。私は急遽、内容を一部変更することにしました。
当日、ドレス姿を見た新郎は、涙目で感激。夢が一つ叶った瞬間でした。挙式ではゲストと相対したふたりが牧師の話に耳を傾け、みんなの前で夫婦の誓いを立てました。これは2人とご家族の未来のために必要な演出。挙式後、新郎のお母様から「あなたのおかげです」と笑顔で言われました。
挙式後は祝福のフラワーシャワー。会員制にしたことで50人も集まり、夢のシーンが叶いました。2人が用意した手づくりアイテムをスタッフ総出で装飾。肩ひじ張らず、自由に祝福する幸せな時間は、アメリカで体験したパーティそのものでした。両家がぎくしゃくしていると聞き、生まれる赤ちゃんのためにもと、両家をつなぐサンクスバイトも行いました。結果、笑顔で会話を始めたご両家。新しい絆の誕生です。
- 新婦のドレスを一番楽しみにしていた新郎は、その姿をファーストミートで初めて見て「今までで一番可愛い」と感激。単なる演出ではなく、夢が叶った瞬間のファーストミートはとても感動的でした。
結婚式のその先には、2人と家族の新たな人生が待っている
20歳の新郎の「家族を守っていく」という決意表明で、会場は拍手喝采。安堵の笑顔のお母様。後日、新郎のお母様はつわりがひどく、結婚式を諦めたと聞きました。経験がない分不安が大きくなり、神経質になられていたようです。そのお母様が泣きながら「自分ができなかったことをやらせてあげられた」と喜ばれていたそうです。
退場後、「夢が叶いました!」と言う2人に、結婚式を人に薦めるか聞いてみました。「一生の思い出になるからするべき」と新婦。「生まれてくる娘にも、結婚式を挙げてくれる男性と出会ってほしい」と新郎。
私はただただ幸せな一日を過ごす、結婚式という素晴らしい文化を壊したくありません。生まれてくる赤ちゃんが大人になった時、ブライダル業界が生んだ結婚式に対する不信感に屈することなく、当たり前のように幸せな結婚式を挙げてほしい。だからこそ目先の利益にとらわれることなく、結婚式のその先にある2人とご家族の今後の人生のためにすべきことをとことん考え抜き、それを積み重ねることで未来を変えていきたいと思います。
- 新婦が大好きというバルーンを、スタッフみんなで飾り付けた会場。「私には“ 結婚” はできても“ 結婚式” はできないのでは」と言っていた新婦の夢が、見事に叶いました。
評価のポイント
結婚式への憧れと不信感、ただ素直に「結婚式がしたい」と言えない雰囲気が、今の時代にはあります。仁藤さんは、そうさせているものから目をそむけず、『結婚式の原点』に立ち返り、新郎新婦にとって本当に必要なものだけを選び取り、憧れでもあり、家族にとって必要な時間を実現しました。こうした意思や行動は周りに伝播し、周囲に始まりやがては大きな変化を生んでいく、そんな未来が見えるような発表でした。