“普通”に感じてもらうために“特別”な工夫をすることがどれほど大切かを学んだ結婚式

2020年に株式会社ブラスへ入社。現在はチーフプランナーとして教育も担当。新郎新婦と「期間限定の親友」になり、何でも相談してもらえる存在を目指している。音楽を聴きながら結婚式の事を考える時間が好き。
家族への体調面の配慮が必要な中、特別な一日を届けるための試行錯誤。
選んだのは、聞かないという決断
気遣いに溢れる2人は、結婚式への希望もごく一般的。ただし、新婦のお母様は入院療養中、お姉様は人工的な香りにアレルギーをお持ちで、一般的なお客様のような参加は難しいという特別な背景がありました。私は、当たり前が当たり前ではない2人と家族のために、特別な一日を届けようと決意を固めました。
ご家族を最優先し、不測の事態に対応できるよう重ねたヒアリング。しかし2人と私には心の温度差がありました。全ゲストに気を遣わず楽しんでほしいと願い、母が中座しても構わず進めてほしいという新婦。私だけが、ご家族を特別に考えてしまっていたのです。そこで私は思い切って事情についてのヒアリングをやめ、その代わりに「想い」の部分を聞いていきました。この選択は、勇気が要りました。

あえて特別感を出さない一日。
香り、導線、進行すべてに配慮し普通に見せるため工夫した舞台裏
式の2カ月前、お母様の容態が悪化。私がプランナーとしてできるのは、2人と家族にとって良い結婚式を創ることだけです。その後回復したお母様が、2人が新郎新婦として〝普通に〟幸せそうな姿を見るのを楽しみにしていると知りました。そこから導き出したのは、あえて特別感を出さない一日を創り、その姿を家族に見て頂くこと。そして表向きは普通の結婚式をするために、裏では特別な準備と配慮を施したのです。
まずはお姉様が通れる導線を確保し、体調を崩した場合の対応を全スタッフに共有。挙式会場が特にお姉様にとって苦手な香りだったため、会場の外から見ていただくことに。感情を分かち合えるよう専属スタッフが側で見守り、お姉様の心に寄り添いました。「見られると思っていなかった」と涙ながらに喜ぶお姉様。ヘアメイク・厨房スタッフ・フローリストなどにも働きかけ、香りに関する配慮を徹底しました。
続いてお母様。両家揃っての対面だと、気遣い上手な2人や親御様は、相手方に配慮して素直な感情を出せないかもしれない……全員の心が通じ合う時間が必要と考えて、対面を2回に分けることを提案。べールダウンはゲスト前ではなく、挙式前に家族だけの時間として行い、挙式中は退出しやすい一番後ろの席をお母様に用意しました。途中何度も控え室へ入るお母様。お母様を待つ時間を普通の時間として感じてもらえるよう、サービス・厨房スタッフに盛り上げを頼み、音響担当には会話が弾む明るめのBGMで音量を上げるよう依頼するなど、工夫しました。お母様には逆算して早めに次の進行のお声がけを。どの瞬間も、他のゲストには状況を伝えるのではなく、あくまでも普通に行いました。

どんな新郎新婦も普通に結婚式ができるおふたりの心に寄り添いカタチにしていく原点に立ち返り良い結婚式を追い求める
私だけでは到底不可能でしたが、全スタッフに「想いを叶えよう」という心の温度が伝わり、チーム全員がプロとして強い想いで創った一日。特別な準備をして臨んだ、普通の式でした。
毎週末のように行われている結婚式。そのどれもが奇跡に溢れ、当たり前などではありません。ゲストやスタッフの心を震わせ、時には生きる力にもなる。結婚式とは、計り知れない力を持つものです。特別な希望や事情があるから丁寧に力を込めて創らなければならないのではなく、どんな2人にも特別な一日があるはず。チーム一丸となって特別な準備をするのは当たり前。誰でも普通に結婚式ができる。これこそが、私達プランナーの介在価値です。今こそ原点回帰をするべきではないでしょうか。私たちはそれぞれの新郎新婦にとって、良い結婚式を追い求めなければならないのです。
評価のポイント
特別な配慮が必要なお客様に対し、あえてそれを見せずに通常と何ら変わらない1日をつくることは一筋縄ではありません。武内さんは、“普通の結婚式”を叶えるために、多くの可能性を考え、備えるための準備を工夫されていました。またそれを、チームを巻き込み、自然と結婚式に組み込まれた点にプロ意識を感じます。多様な時代、お客様が抱えるご事情も様々ですが、武内さんのようにありのままを受けとめる眼差しが求められているのかもしれません。