リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

道をゆけば世界は揺れて愛するあなたと私のため
いつも何か素敵なことがあなたを待つよ

自分達が主役にならない、ゲストのためのパーティが生んだ幸せの連鎖。
結婚式の概念を手放したからこそ見えてきた、プランナーの介在価値とは

鬼頭 学(きとう まなぶ)さん
(群馬県 The Secret Home/SALLY WEDDING DESIGN)

美しい結婚式の世界に魅了され、沢山の新郎新婦様に成長させていただき、人生を賭けて追い求めて17年。プランニングをする上で心掛けている事は、【日常の延長線上にあるちょっとだけ特別な世界線】。

従来の結婚式を提案しない勇気。
ここから、2人の心を形にしたゲストを楽しませる式が生まれる

 従来の形式的な結婚式ならしなくていいと考えていた2人。とはいえ家族の要望もあり、プランナーを立てず2人だけで作った家族のみの挙式には、達成感があったそうです。その達成感とお祖母様の余命の発覚から、パーティを行うことになりました。

 2人は「自分達が主役ではなく、ゲストみんなが楽しめる時間にしたい。自分達の心を形にする結婚式を」と熱望。これほど周囲を大切にする2人が、当初なぜ結婚式はなくていいと考えていたのでしょうか。また挙式で満足していたらパーティをしようとは思わなかったはず。達成感はあったのに心が満たされなかった理由を考えた結果、2人で作ることには限界があるのだと気付きました。心を形にするには、プランナーの介在が必要に違いありません。そこで私は、従来の結婚式を提案するのはやめようと決意。2人の想いを形にするには心から満たされる時間が必要であり、そのためには「結婚式の概念」を手放さなければならないと感じたからです。「結婚式って、ただ誰かを楽しませるためにやっていいんだ!」と、自分自身も楽しみながら、誰かを楽しませることをゼロから考えました。

ワクワクを散りばめた仕掛け。
2人の想いがしっかり伝わる式に会場が一体となり、驚きの場面が!

 まず招待状とは別に、「会報」を数回発行。寄せられた質問を共有したりゲストを紹介したりして、不安を和らげ、ワクワクしてもらえるよう仕掛けました。これが大好評! またゲストとの隔たりを望まない2人のために、ファミリーミートをゲストの前で行うこと、受付は2人自身が行うことを提案。かしこまった式とは違う、いつも通りの空気感。一人ひとりに感謝と愛情を伝え、握手やハグでゲストを出迎える2人を見て、私も式の成功を確信!

 楽しいパーティを望み、挙式はしない選択をした2人。ただの飲み会にしないため、「夫婦になりました報告」を提案しました。冒頭で「私達は夫婦になったけど、みんなとの関係は変わらない。だから今後もずっと一緒に楽しい時間を」と宣言した2人。それはまさに心の声でした。入場も高砂も、ケーキカットもお色直しも、司会者もなし。2人が望んだ「主役ではないパーティ」で、全員の心が一つになっていきます。退場曲は、みんなで口ずさむ「オーシャンゼリゼ」。歌い踊りながら2人とハグやハイタッチを交わすゲスト。笑顔に包まれた会場に、2人が描いた理想の景色が広がりました。さらにアンコールの大合唱が巻き起こり、退場を繰り返すことなんと3回。楽しい式を終えたくない2人の強い想いをゲストが受け取って応えた結果、想像を超えた圧倒的なシーンが生まれました。

心に刻まれた思い出はゲストの未来をも動かす。
プランナーにしか紡ぐことのできない〝幸せの連鎖〟

 後日家族でカラオケへ行った際に、お祖母様の希望で、みんなでオーシャンゼリゼを歌ったそうです。あの日の思い出が、確かにお祖母様の心に幸せを刻んでいました。またこの式を通して、ゲストだったLGBTQの方が、自分も祝福されたいという想いを初めて抱き、パートナーと見学に来られました。「自分達が主役ではない」とゲストの幸せを願う2人の想いが届き、この式はゲストの未来をも動かしたのです。

 結婚式はなくても幸せになれる時代だからこそ、私達プランナーの存在価値は問われています。私はこれまで結婚式は2人のためにあると信じてきましたが、この2人は誰かの幸せを願うための結婚式を望みました。決めつけず、導かずに歩み寄り、心の奥の想いにたどり着く。過去の思い込みは手放し、2人の心を顕在化する。……このプランニングによって真の思いに歩み寄ることができ、想像を超えた幸せの連鎖が生まれました。これこそが、プランナーにしかできないこと。だから私はこれからも、プランナーの可能性を広げ続けていきます。

評価のポイント

プランナーキャリアを積む中で、自分なりの「型」が形成されてゆくものですが、鬼頭さんの今回のプランニングは、その従来の型や方法を「手放す」というところが重要なキーワードでした。純粋な結婚式づくりの楽しさに立ち返り、ありたい1日をおふたりと共に描いていく。結婚当日までの工程から仕掛け、ゲストを巻き込んでいく工夫。そのプロセスに心が躍り、もっと結婚式は自由でいいんだと、多くの人が刺激や兆しを感じられた発表でした。