リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

「ルーツを辿る結婚式」3DAYSの伴走記

2人との対話から、狙いを持って3段階のステップに分けた5日間。
「祝福の情景が⽣きる⼒となる結婚式」に欠かせないプランナーの介在価値

東 佐江子(ひがし さえこ)さん
(愛知県 WEDDING LAPPLE)

心が動く体感を通して、「この人生でよかった」と思える機会をつくる。
というミッションを会社として掲げ、対話を通して心の後押しをする、そんな伴走型プロデュースを大切にしています。

親との確執と向き合う新婦の葛藤。
その本音を叶えるため祝福が人生の力となるよう3ステップで式を設計

 親と溝があり、感謝を伝える気になれない」と新婦。対話を続けると、「親子関係を修復したい」「支えてくれた祖母に感謝を伝えたい」「両家が揃う機会が欲しい」と本音が見えてきました。2人に縁のある沖縄で思い出を作りたい、集まってもらうのは申し訳ないけれど仲間と集まりたい、という希望も。1日にまとめるのは難しいため、3回に分けて段階を踏むことにしました。ステップ1で新婦と両親が絆を取り戻し、ステップ2では沖縄で未来を誓い両家を繋げ、ステップ3で人生を支えてくれた人が集結。それぞれに目標を掲げ、「祝福の情景が生きる力となる式」というゴールに向け、式を設計しました。

対話と心支度で繋ぐ親子の絆。
沖縄では家族の交流が自然と深まり結びの宴では全員が一つに

 ステップ1〈実家式〉の鍵は、新婦からの修復の手紙。ご両親が複雑な気持ちにならないよう感情を整理する時間が必要と感じた私は、実家式を2日に分け、手紙は初日に読むよう変更。事前にご両親とオンラインで対話し、気持ちを受け入れる心支度をしてもらいました。そこでわかったのは、娘を大切に想い、悩みながら子育てをしてきたこと。それを伝え、新婦の不安を解消します。当日はスタッフを受け入れてもらうため一緒に居酒屋へ。チーム全員でゴールを思い浮かべ、空気を温めます。新婦の手紙に途中顔が曇る瞬間もありましたが、「言ってくれてありがとう」と答えたご両親。心支度を重ねたからこそでした。翌日はお祖母様のもとへ。感謝の想いを伝え、家族みんなが笑って祝う節目となりました。

 ステップ2は沖縄での〈挙式と披露宴〉。新婦家と違い、新郎家の心支度はまだのため、実家式の様子や沖縄での目的を伝え、両家の足並みを揃えました。自由な対話や沖縄民謡を楽しく満喫。お開き後には、自然に打ち上げが始まるなど、目標通り両家が繋がり、交流が深まる状態に。

 ステップ3は、支えてくれた人が集う結びの場です。「集まってもらうのが申し訳ない」とのネガティブな気持ちを払拭するために、「おしゃれな古民家で」という2人の希望を覆し、旅館の宴会場を提案。テーマは結婚大宴会。靴を脱ぐことで得られる開放感で、かしこまらない場作りを。メインの席は設置せず、横流しテーブルで全員が一体化。前方には全員が集まれるスペースを設け、「主役然とする申し訳なさ」を緩和します。また3つのステップを知らないゲストのために、宴会の1週間前にそのプロセスをオンライン配信。これによってゲストも心支度ができ、ただの宴会ではなく、全員が一つになれるエネルギーが生まれました。2人もゲストのテーブルに混ざってお酒を楽しみ、マツケンサンバを全員で踊り祝います。2人のルーツを体感するために参加してもらった親御様も、素敵な仲間に恵まれていることを知り、大喜びでした。

人生と向き合う時間を作り支え合う力を育んだ新婦。
プランナーの介在価値はここにこそあるという式

 家族に対して心を閉ざしていた新婦も、今では旅行にまで行く関係となりました。それは、自分の人生と向き合って整理した気持ちを伝え、受け入れてもらったことで、自分の心も大切にできるようになったからです。⼈の温かさに触れ、「⾃分ももっと誰かを⽀えたい」と膨らんだ家族や仲間への気持ちは、⽣きていく⼒となったはずです。

 近年、イベントプロデューサーから「プランナーがいなくても結婚式は作れる」と⾔われる機会が何度がありました。悔しかったけれど、プランナーの役割や結婚式とは何かを考える転機となり、もっと2人の意志と想いが伝わる式を作りたいと、強く願う⾃分に変わることができました。「結婚式の情景を思い出すたびに、自分を肯定することができ、誰かと生きていくこの人生を心の底から幸せと思える」。そんな節目となる結婚式を、今後も作り続けたいです。

評価のポイント

結婚を機に、親との関係修復を望まれていた新婦。東さんは今回、結婚式当日だけで体現することは容易ではないと、場所と日にちを分けた3回に渡って行う方法を選択されました。その1日ごとに目的と意味を明確に示し、段階を追って心支度を整えていくステップは、まるで春の雪解けのよう。丁寧な設計、ロジカルとエモーションのバランスが秀逸でした。ふたりの人生や家族との幸せな未来を想う東さんだからこその、妙技が光るプランニングでした。