固定概念やルール、制約に縛られることなく
2人に喜んでもらえる最高のラグジュアリーを求めて
札幌市出身、盛岡市育ち。
東京ベイエリアのホテルでプランナーを10年経験。2年前ホテル椿山荘東京へ異動。人を喜ばせる事と、婚礼が無事お開きし帰宅後の一杯が大好きな、いい夫婦の日(11月22日)生まれ。
全員が主役の舞台型結婚式に向けて取材に鑑賞、台本制作と奔走の日々
「自分たちを見せびらかす式にはしたくない」と話す新婦。その様子から「自分が目立ちたくないというより、みんなで楽しみたいのでは?」と気づき、「舞台鑑賞が趣味の2人らしく、全員が主役の舞台のような結婚式」を提案。2人とも大賛成でした。
舞台知識がない私は、劇団四季にアプローチ。個人取材はNGでしたが、舞台を鑑賞したところ、フィナーレでのスタンディングオベーションを経験して感動。この一体感を再現したい!と、披露宴ラストのカーテンコールを思いつきました。
演目も決まりました。ホテルから食材が消え、披露宴の料理を作れないと慌てるシェフ。ゲストが食材を持ち寄り、ホテルを救うという壮大な物語です。題して「食材が、ない!」。ただしゲストとは当日しか会えません。私は会場レイアウトや立ち位置、流れなど、綿密な台本を作りました。
次から次へと立ちはだかる壁前例がないことを老舗で行う難しさ
しかしこの想いは、なかなか理解を得られませんでした。通常のオペレーションを超える協力を求めることは難しく、「こんなに結婚式が多い日にコンセプトウエディングを提案するなんて」とクレームも。実はこの日、32組もの結婚式が入っていたのです。キャプテンにも「コンセプトウエディングは公式ではないからやらない」と一蹴されました。老舗ホテルゆえ「王道・安心・安全」が第一と考えるベテランスタッフも多く、四面楚歌状態。私は悔し涙を流しました。泣き顔では戻れないと思い、ホテル内の森へ行くと「今年もまた椿山荘に来られたね」と手をつなぐ高齢のご夫婦が。その幸せな日常の光景に私はハッとし、2人にも「大切な仲間と過ごす日常」の喜びを、全員が主役の披露宴で感じてほしいと強く思いました。諦めるわけにはいきません。
そこでまず、できないことで揉めるのではなく、できる方法を一緒に考えたいとスタッフに伝えました。時間制限の壁は、細かいタイムスケジュールを組み、当日自分が手伝うことで対処。2人の要望を記したビジュアルシートも作り、納得してもらえるようキャプテンやスタッフに配りました。
少しずつ風向きが変わり始めました。ソファでは食べづらいだろうと2人の食事をコンパクトにしてくれたシェフ。小道具を作ってくれた職人さん。多々協力してくれたプランナー仲間たち。気づけば周りには、支えてくれるスタッフがたくさんいました。
本番当日。世界でただ一つの、舞台の幕が上がりました。ぶっつけ本番とは思えないほど大成功。キャプテンが役者になりきってセリフを言うのを見て、台本を読んでくれたんだと涙が出そうでした。最後は2人、ご家族、ゲスト、スタッフが手を取り合ってのカーテンコール! 舞台風結婚式の実現に、2人もスタッフも泣いて喜びました。
- 「自分たちの人生のワンシーンには必ず、この中の誰かがいてくれた」と2人が言うご家族、ゲストと手を取り合ってのカーテンコール。スタッフも参加し、全員がお互いの感謝と祝福を感じました。
一人ひとりのラグジュアリーを極めたいという想い
ラグジュアリーとは豪華絢爛なだけではなく、一人ひとりにとって価値ある「かたちにはならないもの」。今回2人はお色直しやテーブルラウンドをしませんでしたが、2人にとって重要だったのは、「大切な人と過ごす特別な日常」。これこそがかたちにはならない最高のラグジュアリーだったのです。
私には、夢があります。それは部署の垣根を越え、内部事情や効率を重視し過ぎることなく、ホテルスタッフみんながお客様に寄り添った考えを大切にし、たくさんの方に喜んでいただく最高のラグジュアリーホテルにすることです。他の施設での経験も活かして、2人のために何が一番かを問い続け、諦めません。これからも「かたちにはならないもの」を追求し続けます。
- 劇中の演出で、新婦にシェフハットをかぶせるシェフ。全員参加型コンセプトウエディングならではの温かみ溢れるワンシーンに、ゲストも拍手喝采。大いに盛り上がりました。
評価のポイント
会場の設備やルール等の理由によって、やりたいことを諦めた経験は誰にでもあるでしょう。前例のない挑戦は誰だって怖い。渡辺さんがその躊躇を踏み越えられたのは、新郎新婦のためだけでなく、仲間と共に成長し、愛するホテルをより高めていきたい想いがあったからこそ。夢を実現するために考え抜いた緻密なプランニングとともに、枠を超えたいと思っているすべてのプランナーに聞いていただきたい発表でした。