リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

「またね」 ~15年前に止まった家族の時間が動き出した結婚式~

私がお節介を焼かなくて、誰がやるのか。
その想いによって再び動き出した、家族の時間

鬼頭 学(きとう まなぶ)さん
マリエカリヨン名古屋(愛知県)

お客様とのヒアリングの時間を大切に、柔軟に向き合えるようにあまりお客様の情報を頭に入れない接客を心掛けています。おふたりの人生の物語に参加できるウエディングプランナーは、自分にとって天職です。

「結婚式が親子最後の日になる」プランナー歴10年で初、衝撃の一言

 最初の打ち合わせで飛び出した質問は、「両親って、同じテーブルじゃないとまずいですよね?」。新郎の両親は15年前に離婚。その後は一度も顔を合わせていないとのこと。「両親を見ると自分が楽しめないから、別々のほうが安心」と言う新郎が、衝撃の言葉を続けました。「結婚式の日が、親子3人で会う最後の日になるんです」。
 私は悩みました。このまま当日を迎えていいのか? しかし踏み込めば傷つけるかもしれない……。この時、ふと憧れのプランナーの言葉を思い出しました。「私たちがお節介しなくて、誰がよりよい結婚式にできるのか。お節介が伝わった時、『ありがとう』の温度は変わる」。やっぱりこのままでいいはずがない。そう感じた私は決めました。とことんお節介を焼いてやる、と。
 次の打ち合わせで私は涙ながらに訴えました。「親御さんと向き合わなくていいんですか? 何もせず当日を迎えるのはよくないと思います」。最初は聞く耳を持たなかった新郎。しかし新婦が私に賛同すると、しばらく考えた後、涙を浮かべて言いました。「やっぱりなんとかしてほしい」。そこで私は、挙式予定のチャペルで、結婚式前日に両親に想いを伝えることを提案しました。

前日に気持ちが晴れた新郎が中座のエスコートにご両親を指名

 挙式前日。15年ぶりに家族で再会した瞬間、3人の顔はこわばりました。ご両親を呼んだ主旨を私が説明し、続いて新郎が来てくれたことへの感謝を述べ、離婚当時の想いや、今なら少し理解できるという気持ちを伝えました。その上で「明日は親として見守ってほしい。何より楽しんでほしい」と、涙混じりに語ったのです。新婦からは、新郎を選んだ理由や好きなところについて。私からは、明日は親として見届けてあげてほしいと伝え、この場を終えました。
 これが正解だったのかはわかりませんでしたが、結婚式当日、新郎から「昨日のおかげで今日はとても晴れやかです」と言われてホッとしました。ぎこちなさはあったもののご両親も徐々に笑顔を見せていました。
 私はもう一つのお節介を焼きました。新郎が選んだ中座の相手はお母様でしたが、私はマイクを渡す瞬間、「お父さんも呼ぼう」と声をかけたのです。新郎が発した言葉は「秋田のお母さんと、お父さん」。その言葉に驚きながらも両脇に来てくれた両親の手を、新郎が自ら握りました。手をつないだ3人が笑顔になり、その瞬間15年間止まっていた時が急に動き始めました。驚くことに、それまで黙々と食事していたご両親が会話を始め、一緒にお酌回りまでされたのです。それはまさに、親御さんの姿でした。

急な提案が受け入れられ、新郎が両親と手をつないで中座。スタッフには「もしかしたら直前にエスコート役を変えるかも」と事前に伝えてありました。3 人の姿に、涙をこらえるのがやっとでした。

ご両親が交わした「またね」の3文字が1組の親子の未来を変える

 披露宴後、ご両親から「正直出席するのがとても怖かった。でも息子の気持ちを知り、鬼頭さんが言う通り親として受け止めようと思えました。ありがとう」と言っていただきました。そしてご両親が帰り際、2人だけで交わした言葉。それは「またね」でした。何も考えずふと出た言葉が「またね」。私は嬉しくてすぐ新郎に伝えました。「家族で会う最後の日じゃなくなりましたね」。新郎は泣き崩れ、「ありがとう、本当にありがとう」と何度も言ってくれました。
 この結婚式で私は、諦めずにお節介を焼きました。その結果「ありがとう」の温度が変わる瞬間を経験できました。特別な演出や凝ったコーディネートはなく、至ってシンプルな結婚式。ただそこに懸けた想いはとても熱く、人生が変わるほどの壮大な結婚式になりました。プランナーとして2人に寄り添ってこそ、忘れられない大切な1日が生まれるのだと、私は強く思います。

高校卒業を機に実家を出てから、一度も帰省していなかった新郎。挨拶の際には感極まって涙する場面も。しまい込んでいた気持ちを解放できた安堵があったのかもしれません。

評価のポイント

 普段見ないようにしていた拗れた関係が顕になるのが結婚式であり、そこにプランナーとしてどこまで踏み込むべきなのか、悩む方も多いでしょう。鬼頭さんの「お節介」という言葉には、その迷いを踏み越えた覚悟とともに、自身の行動を客観視する絶妙なバランス感覚を感じます。想いの熱さだけでなく、いつ何を、どのような言葉を使って背中を押すかを考える冷静さが、今回の幸せな変化を生み出したのだと思います。

ウエディングを進化させる