リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

新しい絆とともに、未来へ踏み出してほしい。
だからこそ、伝えなければならない。

小島 重治(おじま しげはる)さん
パレスグランデール(山形県山形市)

プランナー歴10年。普段から映画や漫画をたくさん見て、プランニング力を高める。コミュニケーションと助け合いを大切にし、新郎新婦だけでなく、ご両親やご兄弟、他の方々のお気持ちにも踏み込んだプランニングを目指す。

不可能となったその想いを、どう表現してあげられるか。

 「結婚式をするかどうか、正直悩んでいるんです。」最初のご相談のとき、新婦は声を詰まらせながら、そう打ち明けられました。新婦は一年前に父を亡くし、まだその悲しみから抜け出せずにいました。「本当は父に私のウエディングドレス姿を見て欲しかった。一緒にバージンロードも歩きたかった。でも、叶わないのならやっても仕方がない…。」私は、もしお父様が生きていたら、結婚式をしないという選択をきっと喜ばないだろうと思い、それを新郎新婦に強く伝えました。「叶わないから結婚式をしないのではなく、想いを叶える結婚式をしてほしい。」二人はこの言葉に共感してくれ、結婚式に向けての打ち合わせがスタートしたのです。
 今はもう不可能となってしまった、「バージンロードを父と歩きたい」という想い。それを、どうすれば表現できるのか。私は悩んだ末、バージンロードをお父様の遺影を抱いて歩くことをご提案しました。しかし当館は由緒正しき正規チャペルで戒律も厳しく、当然、前例もありません。私は何度も担当牧師のもとに足を運び、二人の想いを伝えました。そしてその想いは通じました。願いを叶えることができた新婦は、終始、本当に嬉しそうでした。

病院内で行われた家族だけの結婚式。小島さんは、この写真に前向きな言葉を添え、新婦の父への想いをまとめる映像を作成した。「家族の絆がつまったこの写真を、過去の現実を受け止め、前に踏み出すために、あえて使用させてほしい」と二人に強くお願いした。

二人の信頼を失うかもしれない。それでも伝えるのが、自分の使命。

 もう一つ新婦からのご要望がありました。それは、披露宴の最後に、お父様への手紙を読みたいというものです。手紙の最後には「生まれ変わったら、またみんなで一緒に暮らそうね」とありました。それを読んで私は、二人を応援してくれるゲストの前で、あの頃に戻りたいといった後ろ向きなことを言うべきではない、と感じました。でもそれを伝えれば、二人は私から信頼を裏切られたように感じるかもしれない、とも思いました。しかしずっと担当してきた私だからこそ、伝えるのが使命なのだと、こう言いました。「最後のシーンでは、お父様への手紙を読まない方が、お二人のためだと思います。」過去に区切りをつけ、新しい絆とともに未来への第一歩を踏み出してほしい。その想いがすべてでした。それから二人と、時間をかけてじっくり話し合いました。
 そして披露宴当日、新婦からの手紙は、お父様へではなく今を生きる方々へむけた想いが伝えられた のです。一方で、お父様への想いは映像にまとめ、前向きな言葉とともに紹介しました。結婚式後、二人 はゲストの皆様からたくさんのエールをいただいたそうです。

新郎の兄弟・新婦の妹と、両家を皆で支えていく思いをこめた乾杯を提案。新たな家族の絆が誕生。

これからもずっと続いていく、親子の絆を結びなおす。

 一方で新郎は、父を亡くし女性だけとなった新婦の家に、婿として入ることを決めていました。そして新郎の両親も、何も言わず息子のその想いを尊重していました。私は、そんな新郎とご両親との絆を結び直すものを表現したいと思いました。
 そこで、新郎のお父様に、当日サプライズをご用意しました。野球少年だった新郎との十数年ぶりの父と子の絆を結ぶキャッチボールです。父から息子へ、想いをこめた言葉とともにボールが投げられました。それを受けて新郎は、涙をこらえながら、これからもよろしくと、力一杯ボールを返しました。さらに、キャッチボールの後にはいつもお母様が迎えに来てくれたというエピソードから、お母様と一緒に、腕を組んでの中座を行いました。姓が変わってもずっと続いていく親子の絆が、あらためて結ばれたのです。
 新婦と亡くなった父との絆の変化、そして新郎新婦と今を生きる家族との絆の結びなおし。それらを表現できた結婚式になったと思います。

絆の輪を広げたい

 プランナーの仕事は、お客様の望みを実現することだと思います。でも、それだけでいいのでしょうか。私たちプランナーが本当にすべきことは、もっと深いところで、ふたりの想いをよく聴き、よく理解し、一歩踏み込んだ提案をさせていただくことではないでしょうか。そうして築かれた絆はきっと、子々孫々につながっていくものだと思います。プランナーである私たちが、日本の先頭にたって一組でも多くのカップルに、人とのつながりの暖かさを伝え、絆の輪が広がっていくことを心から願います。

審査員の目

 父の死という記憶を抱えて結婚式に臨む花嫁に、あえて「父への手紙ではなく、今を生きる人へメッセージを送るべきです」という提案を行った小島さん。さらに婿入りする新郎と家族の絆、新たな兄妹の絆など、丁寧に「絆の結び直し」を組み込むことで、それぞれの心に響く結婚式を生み出しました。新郎新婦の想いに踏み込み、通常の枠を越えた提案と関係性を構築するその力が高く評価されました。「プランナーのあり方」を考えさせられる内容でした。(2011年9月30日更新)