リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

国を超え繋がり続ける【絆】Wedding

人と人との絆を結び固める一番の方法は、
思いやりの心を持つこと。

原田 温子(はらだ あつこ)さん
北海道・センティール・ラ・セゾン中島公園

プランナー歴6年。結婚後何があっても、結婚式を思い出すことで、絆を再確認でき乗り越えていける。そんな結婚式をつくるために。なぜ結婚式をするのか、なぜそのテーマなのか、二人のことを徹底的に聞くこと、相手の立場に立って考えることを大切にしている。

海を越えても感じられる強い絆を生み出すために。

 家族が一つになる瞬間。それが絆。私は自身の結婚式を通して、絆が思いやりから始まっていることに気づきました。今回の結婚式、変わった演出は何もしていませんが、小さな思いやりの積み重ねによって、絆が生まれるのを確かに感じられました。新郎はアメリカ人、全く日本語が話せません。新婦のやりたいことを全部叶えてあげたいという紳士な新郎です。新婦は学生時代からずっとアメリカにいらっしゃって、小 さい頃からお父さん子、家族思いの優しい方です。今回の結婚式、ゲストはすべて新婦側の親族と友人で、新郎とは初めて会うことになります。また新婦も家族とは5年ぶり、友人とは13年ぶりの再会になります。新婦から伺った結婚式への強い思い―それは、家族のためにあたたかい結婚式がしたい。そして、新郎とゲストの距離を近づけたい、というものでした。私は、それを実現することで、新婦が新郎との絆をさらに強くし、新郎とゲストには新たな絆が生まれる。そしてこの絆と絆が合わさって、海を越えても感じられる強い絆ができる。そんな結婚式になることをゴールにしました。

挙式前に父に花嫁姿を披露する時間を設定。さらに二人が少しでも多く話が出来るよう、質問したりお話を膨らませたりすることに注力しました。子どもの頃に必ずしていた「いってらっしゃいのキス」のエピソードを思い出すなど、絆を結び直すことが できました。

日本語ができない新郎、式が初対面のゲストとの距離を近づけるために。

 日本語が話せず、結婚式後すぐに帰国してしまう新郎。ゲストとの距離を近づけるため、まずは挙式前に、新郎お一人でゲストのお出迎えをしていただくことにしたのです。英語のできるスタッフをつけ、ゲストとの橋渡しも行いました。この時間のおかげで、新郎もゲストの皆様もとてもリラックスした表情になり、絆を作る第一歩の時間となりました。
 言葉が通じないのなら、人柄が伝わる行動でと考え、パーティーでも新郎とゲストの距離を縮める演出を盛り込みました。新郎は料理が得意と新婦から伺っていたので、新郎にメイン料理をフランベしていただくことにしたのです。当日コック帽とコックコートを着た姿はまさにシェフ。一緒に写真を撮りたいという人の列がひきませんでした。一生懸命料理する新郎の姿に、親しみを感じるゲスト。距離がぐっと近づいた瞬間でした。

挙式前に新郎と親族だけの家族の時間を設定。アメリカでの挙式の話や子どもと触れあう新郎の姿を通じ、人柄が伝わる時間となった。

新郎新婦の絆を結んだ父の言葉。挙式前に新婦と父だけの時間を。

 家族のためのあたたかい結婚式をしたいという新婦の希望の裏には、実はこんなエピソードがありました。新婦がアメリカに残り、結婚をしようとしていた矢先、新婦のお父様が心臓病で倒れられたのです。手術の際、もう会えないかもしれないと言われ、すぐには会えない距離を痛感。今回の結婚を諦めて、日本に帰ろうと考えたそうです。しかしそんな新婦にお父様はこう伝えました。「自分が信じた相手と一緒にいなさい。」娘の幸せを思う、父親の思いやり。この一言がなかったら、この結婚は実現しなかったかもしれません。そこで挙式前に、新婦と父、二人だけの時間をつくり、二人の会えなかった時間を埋めていただくことにしたのです。花嫁姿はあえて、新郎より先にお父様に見ていただくことにしました。新婦とお父様が顔を合わせた瞬間。「お父さん、まだ泣かないでね。つられて私も泣いちゃうから。」こうして親子の会えなかった時間が埋められ、絆が結び直されたのです。
 会の締めくくり、また離れてしまう時間が近づいてきた家族。でも、どこにいても家族は一緒だよという思い、きっとご友人も一緒だったと思います。遠く離れていても絆を感じられる。そんな瞬間を見せてあげたい。全員の気持ちが一つになる瞬間、ラストはアメリカならではのファーストダンスです。二人の息がぴったり合ったダンスを、ゲスト全員が見守ります。ダンスが終わったとき、鳴り止まない拍手が会場全体を包みました。たとえ言葉を交わすことがなくても、それぞれの思いがつながり、人と人が結びつく。それを感じた瞬間でした。

二人をよく知り、相手の立場になって考える。

 今回、アメリカにいた二人との打ち合わせはスカイプとメール。距離と直前まで来られないというハンデを乗り越えられたのも、相手の立場になって考え行動することでした。例えば、おしゃれ好きの新婦だからドレスにこだわりがあると考え、資料をメールで送ったり、ご安心いただくために、新婦のご両親に打ち合わせに来てもらったり。その結果、二人は会ったこともない私を信用してくださいました。結婚式の本質は絆を結ぶこと。そして思いやりの心こそ、人と人との絆を結び固める、一番の方法なのです。

審査員の目

 結婚式は、式の前から始まっている…そう改めて気付かされました。「何も特別なことはしていない」と繰り返された原田さんでしたが、新郎新婦やご両親の気持ちに真に寄り添えているからこそ、通常では考えの及ばない時間の使い方をプランニングできたのだと思います。思いやりの心が演出に反映された、素晴らしい結婚式でした。(2012年10月22日更新)