なぜ、ふるさとで結婚式をあげるのか。
そこに、よい結婚式のヒントがある。
プランナー歴14年。プランナーの役割は、二人らしいステージを用意し、そこで二人が普段通りに振る舞える空気をつくることとし、そこに徹することを心がける。二人の人柄を表現できる結婚式をつくるために、ファシリテーター資格取得や心理学の勉強にも励む。
ふるさとに自信をもてない新郎、馴染みのない田舎を嫌がる新婦。
新郎は香川県出身、大学の時からずっと東京に住んでいます。新婦は東京生まれの東京育ち。二人は結婚後も都内に暮らし、香川に戻ることはないとのことでした。ふるさとの両親もそのことは理解していましたが、長男だから結婚式だけはせめて地元であげて、讃岐の婚礼風習も行ってほしい、そう強く願っていました。しかし都会育ちの新婦は、都内のおしゃれなレストランウエディングを希望していて、田舎での結婚式はもちろん、式の打ち合わせに足を運ぶのも嫌という感じでした。一方で新郎は、本当はふるさとで式を挙げたいけれど、心のどこかで自信がなく、新婦に田舎が嫌 と言われると、それ以上は強く言えない感じでした。
今回の舞台「特別名勝栗林公園」、実は350年以上の歴史において、一度たりとも結婚式が行われたことはありませんでした。栗林公園は、江戸時代に百年余りかけて完成された大名庭園で、ミシュラン・グリーンガイドでは最高ランクの三ツ星に選ばれています。そんな伝統と格式は、結婚式の実施においては最大のネックでした。私は10年以上交渉に関わってきましたが、350年間前例がないという壁は、とてつもなく高いものだったのです。
それでも今回のお二人には、この場所しかありえないと確信していました。なぜなら、結婚式は単なるイベントではなく、お互いのアイデンティティを再確認する場所だからです。新郎には自分を育んでくれたふるさと、大切な家族や友人たちが暮らす街へもっと誇りと自信をもってほしい。そして新婦には、そんな生い立ちも含めて新郎のすばらしさを実感してほしい。だからこそ讃岐で最高な場所を用意してあげたかったのです。
- 挙式会場の「掬月亭」から披露宴会場の「茶店 花園亭」まで、雅楽を先頭に花嫁行列で移動。新郎新婦や出席者に、香川の接待(外からの人にも気安く馴染むという県民性)を味わってほしいとの思いから。一般来園者からも祝福の歓声が挙がり、二人も感極まっていました。
人とのつながりの中で育まれた二人の歴史が、350年の歴史を動かした。
公園で式をあげる許可をいただくため、県や園に何度も思いを伝え、説得を重ねました。いつしか頑なだった園の所長さんも、新郎新婦に会って、園内を案内してくれることになったのです。公園の歴史や芸術的趣向などの説明を聞きながら園内を回るうちに、二人はぜひここで式をしたいと言ってくれました。そして、そんな純粋な二人に心を打たれた所長から、ついに許可をいただいたのです。
挙式会場は、代々の藩主が愛してやまなかったという大茶室「掬月亭」。栗林公園では最も高貴とされる場所です。公園の美しい姿を楽しんでいただくため、神前式の司式の祭壇は、あえて湖面をバックに設えました。挙式会場から披露宴会場までは、園内を花嫁行列しながら、外から来た人に気さくに声をかけ、もてなす讃岐のゆかりの精神を感じていただきました。披露宴では、二人が選んだ瀬戸内の春の風物詩、鰆の押し寿司や讃岐コーチンなど、地産地消にこだわった婚礼料理。しめは長くて切れない縁起物の讃岐うどん。そしてケーキの代わりに登場した、大型上用饅頭と、まさにふるさと讃岐づくしの二人のおもてなしでした。
- 披露宴は『茶店 花園亭』。普段はお土産物屋のため、料理の内容からサービス導線まで、事前に細かく擦り合わせを行った。
結婚相手のルーツを知り、二人で生きていくことを確信。
披露宴の締めくくりは花嫁の手紙とともに、新郎にもご両親あてのメッセージを読んでもらいました。ふるさとを離れ、都会で暮らす新郎にとって、この結婚式は二人のスタートであると同時に、もう一度自分のふるさとの良さを見直し、自信を取り戻す場にもなったのです。出席者はもちろん、観光客や地域の人たちにも祝福され、「一生分のおめでとうをもらいました。ありがとうございます」と、満面の笑みを浮かべる新郎新婦。そして結婚式後、こっそり新婦が私に仰いました。「香川っていいところですね。東京より人がみんな優しい。ここで式をあげたら、香川出身の彼が優しい訳がわかりました。もっと好きになりました。」
よい結婚式とは、二人の生き方の宣言が表現されていること。
結婚式で大事なのは、二人でこれから生きていくために、互いを認め合うプロセスです。よい結婚式、オリジナルウエディングとは、派手なパフォーマンスでもおしゃれな装飾でもなく、私たちはこんな風に生きていきますという宣言が表現されていること。自分たちがこの世に生まれ、生きた証を残すことなのです。だからこそ、結婚という瞬間にふるさとにもどり、自分たちのルーツを辿り、相手を認め、ふるさとを誇りに感じたいのです。私たちはこんな風に生きていきますと、大好きなふるさとに宣言するために。
審査員の目
この結婚式は、新郎新婦やゲストのみならず、頑なに婚礼の受け入れを拒んできた栗林公園、偶然花嫁行列に出会った地元の方々など、関わる全ての人の気持ちと「これから」を変化させました。それは藤田さんの確固たる信念とプロデュース力があったからこそ。結婚式の意味と可能性を、改めて強く実感し、考えさせられた発表でした。(2012年10月22日更新)