リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Back to School ~今日までの歩み 今日からの道~

出逢った新郎新婦、一人ひとりの絆を感じ
人生に寄り添い続けていくことへの覚悟

上條 智広(かみじょう ともひろ)さん
パレスグランデール(山形県山形市)

プランナー歴9年。神奈川県出身。二児の父。大学卒業後、山形へIターン。パレスグランデールで自身の結婚式を挙げ、7か月後入社。「出会えたご縁」を大切にし、生涯顧客を創ることに力を注いでいる。

父の家業を継ぐ2代目の結婚式。義務感のような空気が漂っていた

 「私たち、生まれた病院も通った学校も同じ。それから私たちの父も同級生なんですよ」。楽しくお話される中、新郎様がポツリ。「結婚式はただ挙げるもの。無事に終わればそれでいい」。それは呼びたいゲスト以上に呼ばなければいけないゲストが多かったことが原因でした。新郎のお父様は塗装店の社長。ゲストの大半は会社経営者や役員で、新郎にとっては面識が薄い存在。二人にとって結婚式を挙げるということは、まるで「義務」のようでした。

二人の過去を思い出すことで、人とのつながりを感じてほしい

 私が考える「いい結婚式」とは、そこに集ったゲスト全員が、実は新郎新婦を介してすべてつながっていると感じられる結婚式。仕事関連の方々も実はみんなつながっているはず。そこで前向きではなかった二人に宿題を出したのです。「新郎新婦ならではの、人とのかかわりを思い出すために、幼少時代から高校までの写真や文集など、なんでも引っぱり出して、二人の過去へ遡ってみてください」。二人の人生の中で大切な人、場所を思い出すことでゲスト全員とのつながりを感じていただきたい。これが宿題を出した目的でした。そして「上條さん、宿題やってきたよ!」と、それまで後ろ向きだった新郎新婦が目を輝かせながら私のところへ。聞けば「お父さんの仕事を手伝いたい」という言葉が、新郎の文集に残っていたとか。自身も忘れていた21年前の夢がそこにあったのです。
 こうして過去に戻ったことが、二人の未来へと目を向けるきっかけとなり、過去に戻り未来をつなぐ、今回のテーマが生まれました。

幼なじみの新郎新婦に、生まれた病院、通った学校などをめぐるオープニングVTRを提案。これは、二人自らの足で過去に戻ることが必要だと考えた演出でした。二人にとっては、今日までたくさんの支えがあったことを見つめ直される、良いきっかけとなりました。

プランナーにとって、結婚式は、ゴールではなくスタート

 私は自ら台本と絵コンテを書いて、オープニングVTRを作ることを提案しました。ムービー演出は二人の幼少時代にさかのぼります。生まれた病院、ともに通った幼稚園や学校、そして毎日食べた母のお弁当。映像で過去を振り返ることを提案し、撮影に出かけました。そして撮影が終わる頃、幼い頃は気づかなかった無償の愛を二人は知ることになります。「結婚式は今まで支えてくれた人へ、そしてこれからお世話になる人へ感謝をする一日」。そんな気持ちが二人自身に芽生えてきたのです。
 そして、「お父さんの仕事を手伝いたい」と新郎が文集に書いたあの言葉は、「2代目として仕事を受け継いでいく」という新郎の決意挨拶となり、会場からは「オヤジに負けるなよ!ガンバレ!」と応援の声が。義務として呼ばなくてはいけなかったゲストは、二人の決意を承認し応援してくれる人生で必要な人となったのです。
 そして、後日。結婚式に参加できなかったお婆様の米寿祝が、結婚式をした会場で行われました。式で使ったネームを家族全員でつけると、お婆様の顔には本当に嬉しそうな笑顔が。家族に寄り添えた喜びを強く感じたひとときでした。
 私は2ヵ月に一度、担当させていただいた300組以上の新郎新婦に手紙を届け続けています。プランナーの役割は、二人、その家族、ゲストすべての人生にずっと寄り添っていくことだと思います。お食い初め、退職祝い、会社の記念行事と結婚式後の人生に寄り添うことができ、心から感謝しています。私は出会った全組にこの覚悟を持ち、結婚式を創り続け、未来が多くの幸せの線で結ばれるよう心をこめて伝えていきたいと思っています。

3ヵ月後、新郎のお婆様の米寿祝いでご縁がつながりました。結婚式後もこのご家族の人生に寄り添えたことにとても感謝しています。

結婚式をきっかけに、一生ご家族に寄り添って行ける関係を築く

 結婚式だけでなく、その家族の節目に携わることができるプランナーを目指しています。お客様と生涯つながる関係でいるために、担当させていただいたお客様へDMを送り、ご縁を長くつなぐ工夫をしています。結婚式という貴重な時間を新郎新婦と創り上げることから、一生涯の関係、未来へと続く関係を築くことも大切なことではないでしょうか。

審査員の目

 結婚式を終えた後も新郎新婦と交流のあるプランナーは多いでしょう。でも上條さんのように、担当した全てのカップルと繋がり続けたいと考え、行動することはなかなかできることではありません。未来に寄り添う覚悟があるからこそ、二人のそれまでの人生に踏み込み、節目としての結婚式の意味を引き出すことができるのです。「生涯顧客」の意味 を考えさせられました。(2015年10月15日更新)