リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Yプロジェクトによる 「人と人とのつながりでビッグサプライズ」

想いを誠実に伝え続け、やり続けること
それが周りの人たちを変え、常識を変える

関口 善則(せきぐち よしのり)さん
八幡平ロイヤルホテル(岩手県八幡市)

フロント・予約業務16年を経て、プランナーとして9年目。今日の結婚式より明日の結婚式がよりよくなるように、日々進化させていくことを心がけている。

業界の常識を変えたい。想いを発信し続けた9年間

 私は子供の頃、父の転勤で15回引っ越しました。小学・中学・高校と転校を繰り返し、何度もいじめにあいました。友達も一人もいませんでした。それがトラウマで、私は人間が大嫌いでした。9年前にプランナーになったとき、私は決めました。新郎新婦にだけは嫌われないようにしよう、もう一人にはなりたくない。でも、二人のことを一生懸命考えれば考えるほど、業界の常識に矛盾を感じるようになりました。新郎新婦のやりたいことができない、プランありきの提案。持ち込み料って何なのか。私はそれまでのホテルの常識を変えるところからスタートしました。もちろん簡単ではなく、現場の抵抗、上司の冷ややかな態度、取引先からの苦情、たくさん来ました。何度もやめようと思いました。でも、想いを発信していくうち、いつしか共感してくれ、自分と共に戦ってくれた多くの仲間が、私の背中を押してくれました。心を通じ合える友達が、人生の中で初めてできたのです。

新郎新婦の費用負担ゼロで、 新婦にはサプライズ結婚式を

 今回、私のもとに相談に来られたのは新郎の友人でした。これまで何度も新郎に助けてもらったという彼。「二人には子供もいてお金の余裕がなく、このままだと結婚式はおろか写真一枚も残さず終わってしまう。何とか恩返しがしたいんです」。彼の仲間に対する熱い想いが伝わってきました。そして一緒に、新郎新婦の費用負担ゼロにすること、新婦には結婚式をサプライズにすることを決めました。もちろん一人では実現できません。まずは賛同者を集める声掛けから。そして私と彼が連れてきた仲間が加わり、総勢7名の、偶然にも新郎新婦含め全員の名前にYが入っていたので、全員がYで結ばれた「Yプロジェクト」がスタートしたのです。

プロカメラマン、映像制作の達人、調理師、栄養士と多彩なゲストたちで、会場装飾からセッティングまで、すべて仲間の力を結集してつくりあげました。元衣装屋からはドレスを1着提供。司会も友人つながりで現役DJがつとめました。

会場装飾からセッティングまで 仲間の力を結集してつくりあげる

 招待ゲストには、友人から友人へと口コミで案内しました。この友人ネットワークには、プロカメラマンや調理師など多彩な方々がいて、装飾やセッティングなど、すべて仲間の力を結集して行われました。ある日、メンバーの一人からこう言われました。「多分今までの常識なら受け入れ難い、持ち込みだらけの結婚式」と。9年前なら間違いなくお断りしていたと思います。でもこの9年でホテルは変わりました。スタッフも胸を張って取り組めました。新郎新婦のことを本気で考えていれば、売上や利益は必ず後からついてきます。私は改めて9年間自分がやって来たことが間違いではなかったと確信することができたのです。 途中、新郎が頻繁に打ち合わせに参加していたため、新婦に浮気と勘違いされ、大喧嘩になるというハプニングがありました。急遽、披露宴のみのサプライズに変更。挙式と写真撮影を新婦にプレゼントしようとしていたと、新郎から伝えていただくと、新婦は涙を流して喜んでくれました。
 当日、挙式後は写真撮影で終わると思っていた新婦。写真室と書かれた部屋の扉を開いた瞬間、たくさんのゲストの笑顔と拍手に迎えられました。そして感動のサプライズ披露宴が始まったのです。
 この結婚式で私は仲間の大切さを教えていただきました。「Y」という字を上下逆に見ると、「人」という字になります。今後もたくさんの「人プロジェクト」を、たくさんの仲間と一緒に作っていきたいと思います。プランナーという仕事を通じて、初めて人間が大好きになりました。

新婦の憧れだったウエディングドレスでの感動的な挙式も実現。

常識にとらわれず、誠実に想いを伝え、人と人を結び付けていきたい

 プランナーの役割、それはとことん新郎新婦のことを考えること、本当に望むことを引き出すこと、今までの常識にはとらわれないこと。それを新郎新婦に誠実に伝えること、それを実現できる環境をつくること。一人では出来ません。自分の想いを理解し、引き継いでくれる人を作ること、それもすべてプランナーの仕事と考えています。人にほめられるよりも、心から人をほめることができるプランナーになりたい、人を笑顔にさせてあげられるプランナーになりたい。いつもそう思っています。

審査員の目

 結婚式は二人だけが創るものではなく、仲間もそこに参加してくるケースが増えています。そんな今、必要となるのは、関口さんのようなスキルとスタンスなのではないでしょうか。「新郎新婦やゲストが喜ぶことをとことん考え、実現できる環境を作ることがプランナーの仕事」と考える関口さんが、その過程で多くの仲間を得、人間嫌いを克服していく様子が感動を呼びました。(2013年9月30日更新)