リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

ちょっとだけ

二人の思い出に何が残せるか
意味のある式にするために寄り添い導くのがプランナー

佐伯 恵里(さえき えり)さん
ザ・ジョージアンハウス1997(群馬県)

プランニングで大切にしているのは、ニュートラルな目での判断、寄り添うこと、美しくデザインすること。何でも一度は経験し、お客様との共通体験の引き出しを増やしたい。好きなものはビール、読書、ランニング。

誰かにやらされた形だけの結婚式にはしたくない

 「母親がやってほしいというから」と来店された二人。理知的でクールな印象の新郎と控えめな笑顔が可愛らしい保育士の新婦には、結婚式への想いや憧れが一切無いようでした。ヒヤリングをしても、返事のほとんどは「わからない」。話を続けるうち「僕らのためにお金を払い、時間を割いてもらうのが申し訳ない。そもそも、どうして結婚式をやるのかが理解できない。だからやる気にならない」ということがわかりました。私は、「二人の誓いを皆様に見届けていただき、お世話になった方々に感謝の気持ちを込めておもてなしすること」が結婚式の意義であり「二人の人生にとって大切な意味を持つ儀式です」と説明。誰かにやらされた形だけの式は絶対に避けたい、二人らしい結婚式を作るためプランナーとして導いて差し上げなくてはと決意しました。
 言葉数の少ない二人。最初の打合せでわかったのは、新婦は絵本が好きということでした。自分で読むのも好き、読み聞かせも好き。なかでもお気に入りは「ちょっとだけ」という絵本。きっと保育園でも、子どもたちに何度も読み聞かせをされているのでしょう。

新婦が自分の好みで選んだ、華やかな赤いドレス。大人かわいい雰囲気が新婦にぴったり。ヘアスタイルはボブですっきりキュートな印象

”ちょっとだけ“先を歩き ”ちょっとだけ“前向きに

 新婦がドレスの試着で選んだのはフリルがついたピンク色。「好きじゃないけど、皆が見たいのはこんなドレスかなと」。私は新婦を輝かせるドレスを探すため、一緒にドレスショップに向かいました。そこで出会ったのが真っ赤なドレス。試着した瞬間、新婦の表情が変わりました。「なんかいい感じ…」。ドレスショップからの帰り道、「佐伯さん、私なんだか楽しくなってきました」。新婦が初めて言った前向きな言葉を聞いて、私は思わず飛び上がりそうになりました。
 結婚式の思い出の品として、ご両親に何が残せるかと考えた結果、絵本を描くことを新婦に持ちかけました。娘の人生を形に残せたらご両親にとって最高の記念になるはずです。
 結婚式の直前、新婦から「ちょっとだけお願いがあるんですが、絵本を上映しながら朗読することはできますか? 私が読んでいるページを皆様にも見て欲しいんです」。
 二人の結婚式を意味のあるものにしたい。その想いで、受け身だった二人の少しの先をリードし、寄り添い導いた結果、ちょっとだけ前に進むことができました。

ベリーたっぷりの三段重ねで華やかさが際立つウエディングケーキ。デザインテーマは二人の祝福
新婦が作ったオリジナルの絵本。絵を担当したのは同僚の保育士。当日はスライド上映と朗読で披露した

新郎新婦への理解を深めるためさまざまなことにチャレンジ

 自分の考えを押し付けるのではなくニュートラルな立場で新郎新婦に向き合うようにしています。共通体験を持つことで新郎新婦への理解を深めようと、日常生活でもいろんなことにチャレンジ。今回は、準備期間に登山を経験し、そこで見た景色の美しさを二人の晴れ舞台に重ね、頂上へしっかり導かせていただこうと決意を新たにしました。

審査員の目

 「結婚式への想いがほぼ無い」そんなお二人を担当されたプランナーの方も多いのではないでしょうか。お二人の想いを叶えるだけでなく、自身の結婚式への想いをきちんと伝える事もプランナーには必要です。ただ気持ちを押し付けるだけではダメ。今回の佐伯さんは「半歩先をリードする」という絶妙の距離感がお二人の変化を生み出したのだと感じます。