制度の先にいる人を見つめ、痛みも笑いも生き方も抱きしめる結婚式の記憶
境界線のない、「おめでとう」の温度設計

ホテル経験を経て、株式会社ポジティブドリームパーソンズに入社。バンケットサービスに3年所属し憧れのウェディングプランナーへ。「想像した世界は必ず実現できる!」をモットーに、10年以上走り続けてまいりました。
事実婚という選択にも
おめでとうの温度を変えない
一日を作るための挑戦
事実婚です。初めてその言葉を聞いたとき、私の中に浮かんだのは「事実婚でも結婚式をするんだ」という浅い驚きでした。結婚の形は多様化したと言われます。けれど私たちは、本当にその背景にある人生まで見ようとしているのでしょうか。新郎が入籍を選ばなかった背景には、幼い頃の記憶がありました。父の言動で母や家族が傷つき、夜中にすすり泣く母を守りたいのに、何もできなかった苦しさ。いつか自分も父のようになってしまうかもしれないという恐れ。入籍しないことは、誰かを拒むためではなく、大切な人を傷つけないために握りしめてきた決意でした。
一方、新婦にも婚約破棄という深く苦しんだ過去がありました。救ってくれたのは、お母様の「あなたの名前は、苗字と合わせて一番かわいい名前をつけたのよ。だから苗字が変わらなくてよかったわ」という言葉。その日から新婦は、自分の名前を大切に生きたいと思うようになりました。
ふたりにとって事実婚とは妥協ではなく、自分たちらしく生きるための前向きな選択でした。けれど周囲から向けられる言葉は、制度との比較ばかり。入籍しているか、していないかで「おめでとう」の温度が変わっていいはずがない。このまま結婚式をさせてたまるか。私は、ふたりが「私たちはこれがいい」と胸を張り、ゲストが制度の説明ではなく、ふたりの生き方を受け取れる一日を作ろうと決めました。
ふたりの痛みも魅力も関係性も
「これが二人だよね」
丸ごと祝福へ導く魔法
打ち合わせを重ねるうち、私は大切なことに気づきました。悲しい過去だけが、ふたりの本当の姿ではないということです。好きなものの話になると子どものように目を輝かせ、夫婦でありながら時にはライバルのように競い合い、遠慮なく茶化し合う。辛かったことも、今の自分たちをつくった一部として受け止め、笑いながら前へ進んでいる。そこにこそ、ふたりの強さと魅力がありました。だから私は、悲しい過去を感動に変えるのではなく、好きなものも、関係性も、背負ってきた人生も、丸ごと愛して祝福できる結婚式を作ろうと考えました。
そのために設計したのは、制度ではなく人に近づいていく感情の流れです。まずは新郎が制作したデザインを会場中に散りばめ、ふたりの世界観へゲストを引き込みました。披露宴は入場からではなく、後方にスポットライトが切り替わるオープニングアクトから。新郎新婦を思って作られた曲に包まれ、ゲストは余興ではなく体験として、ふたりの世界に入っていきました。
次に、ふたりを結婚式仕様に変えるのではなく、ゲストを新郎新婦の日常へ近づけました。ケーキ入刀ではなく太巻き作り。嫌いなものを入れたり、高カロリーにしたり、ふざけ合いながら愛情を笑いに変えていくふたり。さらに席札は、ゲストの個性を独断と偏見でポイント化したトレーディングカードにし、人間性で戦うカードバトルを開催。 会場には自然と一体感が生まれ、誰もがふたりの価値観の中で笑っていました。
そして、背負ってきた人生をそっと荷下ろしする時間を作りました。新郎には、兄弟に優しくできなかった過去がありました。だから中座では謝罪ではなく、兄弟自慢をしていただきました。家族への手紙は、家族に向けた言葉であると同時に、小学生だった新郎自身を救う手紙でもありました。あの時の自分は、お母さんを守ろうと必死だっただけ。そう肯定できる時間を作りたかったのです。
新婦には、誰かに理解してもらうための説明ではなく、「この人と、この名前を大切に生きていく」という決意を言葉にしていただきました。痛みが、少しだけ誇りへ変わる瞬間でした。
温かな空気に包まれたその時、新婦が突然「ルーモス」と唱え、新郎がスマホのライトを灯します。映画『ハリー・ポッター』シリーズに登場する、明かりを灯す呪文です。会場中が光に包まれ、エンドロールの最後に映し出された言葉は「いたずら完了」。過去も、事実婚という選択も、お茶目な関係性も、すべてひっくるめて「これがふたりだよね」と笑いながら受け止める自然な祝福の場がそこにありました。
祝福に境界線はない。
人の一生に住み続ける記憶を、
私は作りたい。
後日、新婦が見せてくれたノートには、ゲストからもらって嬉しかった言葉がびっしり書かれていました。新郎もまた、長く距離を置いていた実家へ、家族に会いに行く旅行をしたそうです。目を輝かせて話すふたりを見て、私は確信しました。祝福に境界線なんてない。どんな形であっても、この人と生きていきたいという願いは、まっすぐ祝福されていい。だから私はこれからも、結婚式を作り続けます。私の使命は、何年経っても人の一生に住み続ける記憶を作ることです。




評価のポイント
事実婚に対して理解があると思っていた自身の前提を問い直し、ふたりが選んだ生き方を後ろめたく感じさせない結婚式を作ろうとした姿勢が印象的でした。「制度」ではなく「その人」を見つめ、ふたりの痛みや魅力に寄り添いながら、結婚式を通して自分ごととして受け止め、前へ進むきっかけを設計した点に、プランナーとしての誠実さと深い使命感が表れています。