時間がないことを言い訳にしない
できることをすべて。
義を尽くした自然体ウエディングの証

花嫁着付の勉強をしていた頃、アルバイト先のレストランで、当時では珍しい人前式を目にしたことがブライダルとの出会い。
以降、31年間ホテルウェディング一筋。
GWA2022年、2024年ファイナリスト。
最後まで「義」を尽くす。
限られた時間でも線を引かず、
安心と信頼を土台にふたりの本音へ
プランナーの仕事はヒアリングから始まります。カップルを知るための大切な情報収集。かつて私は、その先にある思いに本当に触れられているのだろうかと悩んでいました。会話を重ねても深い話を引き出せない。試行錯誤の末に見出したのは、「ヒアリングの前に必要なこと」でした。まず安心感を持ってもらうこと。そして信頼を築くこと。この当たり前の手順を飛ばして聞き出そうとしていたから、うまくいかなかったのです。説明責任を果たし、信頼の土台を築いてこそ、自然と本音があふれ出す。一見遠回りに見えるこの流れこそが、私の最短距離になりました。
そこに重ねた信条が「当日のその瞬間までプランニングする」ことです。準備期間をかけて情報を塗り重ね、ふたりの変化にも寄り添いながら、本当の思いに近づいていく。それが私のスタイルになりました。
そんな中、別会場をキャンセルし、当日まで残り30日で出会ったふたり。準備期間も短く、きっと不安だろうと思って臨んだ初回で、「披露宴ではなくパーティがしたい」「司会者も演出もいらない!」。そうはっきり伝えるふたりに感じたのは、不安ではなく純粋な期待感でした。その姿に、私は自分が無意識に引いていたボーダーラインに気づかされました。短期間だからここまで。演出をしたくないなら何もしなければいい。これまでの私なら、そんな線を引いていたかもしれません。でも今回はとことん向き合おう。会場を変えてまで理想のスタイルを追い求めるふたりに対する、プランナーとしての責任だと思いました。演出をしたくないことを、何もしなくていい免罪符にはしない。納得できるまで「義」を尽くす。ふたりのことを考え続け、最善を尽くすと決めました。
とはいえ、実質10日ほどですべてを決めなくてはなりません。悠長に情報を塗り重ねる時間はない。それでも、まずは安心と信頼です。具体的な料理やレイアウトをすぐに提案し、「ここならイメージ通りのパーティが叶う」という確信を届けました。しかし直接向き合える時間は削られ、会話だけで深く掘ることは物理的に難しくなっていきました。今のままでも結婚式はできる。でも私にとってはまだ下書きでした。ふたりならではの空気感に確信を持てなかったのです。
限られた時間だからこそ、
選んだものや世界観から
ふたりの本音を読み解く
そこで私は、言葉ではないヒントに目を向けました。新婦が選んだのは、ある作品とコラボした運命のカラードレス。その出会いは、予定になかったお色直しと前撮りへとつながります。前撮りで目に留まったのは、日本語で刻まれた新婦の二つのタトゥー。由来の曲を聴き、歌詞を読み込むと、未来に届かなかった痛みと、それを浄化する希望がありました。その世界観は、新婦が好きな物語とも重なっていました。
曲を聴いたことを伝えると、新婦は「この曲、すごく刺さるんです。私もいろいろあったので」と話してくれました。けれど私は、それ以上踏み込みませんでした。過去を掘り起こすより、今の新婦をそのまま受け止めたいと思ったからです。ふたりが勧めてくれた漫画にも、痛みを抱えながら自分らしく生きようとする、同じ哲学が流れていました。選んだもの、好きな世界観、肌に刻んだ言葉。点と点が線になり、ふたりの思いに触れられた気がしました。
演出をしたくない。それは何もしないということではありません。作られた新郎新婦を演じるのではなく、ありのままのふたりで大切な人の前に立ちたいという意志でした。ヒアリングとは、単なる情報収集ではなく、カップルを丸ごと受け入れ、心の距離を縮めるプロセス。言葉よりも、選ぶものや好きな世界観が本音を教えてくれることもあるのです。
私は「自然体でゲストとの絆を深めたい」という思いを読み解き、形にしていきました。ふたりの合図で一斉に木箱を開ける演出は、静かな一体感を作る時間に。テーブルラウンドでは親御様へ直接贈呈品を手渡し、音楽やアナウンスを抑えて温度のある感謝を届けました。リボンリースには今日の証を未来につなぐ願いを、チェキコーナーには何気ない記憶を人生のログとして残す意味を込めました。
当日は、グループや言葉の壁を越えて自然に交わる、和やかな時間が流れました。新郎父が自らデザートを配り始めたのも、自由な空気がお父様の心を動かした瞬間でした。当日のゲストの空気から、「これなら大丈夫」と確信して再入場で仕掛けたのは、作品のライブのようなスタンディングオベーション。しかし、ふたりを包んだのは歓声ではなく、静かに立ち上がった全員からの温かな拍手でした。一瞬焦ったものの、ふたりとゲストの表情を見て「この穏やかな空気こそ、ふたりが歩む人生。これでいい。」と思いました。私のエゴを超え、ふたりのありのままとゲストからの肯定が交わされたのです。
足りないことを嘆くより、
私なりに尽くせることを尽くし
愛と数字を両立する道へ
満点の計画ではなかったかもしれないけれど、30日間納得できるまで考え続けたからこそ、たどり着けた景色でした。「足りないままで幸福になって」。新婦のもう一つのタトゥーの言葉は、ヒアリング不足に焦っていた私の迷いを消してくれました。足りないことを嘆くより、私なりに尽くせることを尽くす。そうしてふたりは、自分たちのままで幸せになっていいのだという確信を胸に未来へ踏み出しました。
大切なのは「パーティ」という呼び方ではなく、カップルが本当に求めているものを探り、実現すること。結婚式は、人生を肯定する時間になる。だからこそ私は、利益や効率の前に義を尽くし、愛と数字を両立できる、「先義後利」のプランナーであり続けたいです。




評価のポイント
短期間での準備という制約の中でも、効率や売上を先に置かず、まず安心と信頼を築き、ふたりに義を尽くそうとした姿勢が印象的でした。言葉で深く聞けない状況でも、ドレスやタトゥー、好きな作品など、ふたりが選んだものから本音を読み解き、ありのままの姿を肯定する時間へつなげた点が素晴らしいです。足りないことを嘆くより、尽くせることを尽くし、結果として愛と数字を両立した姿勢に、プランナーとしての誠実さと介在価値が表れています。