リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

感動は、作らない。ふたりを信じて決めた3つの「しない」

ふたりがより確かな未来へたどり着くために。
その道のりをそっと見守るプランナーの覚悟の物語

柴田美樹さん
柴田 美樹(しばた みき)さん
(北海道/Coco style WEDDING)

一度は引退したプランナーの道。
「結婚式の道のりそのものが、ふたりの未来の力になる」
と信じて向き合ってきました。どんな感情も受けとめて、ふたりにエールを送る存在でいること。それが私のポリシーです。

プランナーが仕掛ける感動よりも
ふたりが本当に見たい景色のため
能動的な「しない」を決めた

感動を届ける場である結婚式は、それを作りあげるためにプランナーは、言葉を足し、演出を足し、意味を添えることで価値を生み出してきた面があります。けれど私は、その“足す”仕事の先に、かえって失われてしまうものがあるのではないかと感じていました。ふたりが本当に見たい景色は、誰かが整えた美しい場面ではなく、自分たちの意志から自然に生まれる時間なのではないか。そう考えたことから、今回の挑戦が始まりました。

新婦は、人の気持ちを深く考え、自分の本音を後回しにしてしまう優しさを持つ方でした。大人になってからの両親の離婚から年月が経ち、それぞれに幸せがあることを理解しながらも、心の奥には「結婚式が何かのきっかけになったらいいな」という小さな願いがありました。その言葉を聞いたとき、私はそれを単なる希望ではなく、新婦自身の内側から生まれた大切な意志として受け止めました。

プランナーとしてご両親を説得したり、サプライズを仕掛けたりして、感動的に見える場面を作ることはできる。しかし、それはふたりが本当に望む景色ではないかもしれない。そこで私は、言葉を足さない、演出を足さない、意味を足さないと決めました。ふたりの気持ちを勝手に超えないこと。それは、何もしないという消極的な選択ではなく、ふたりの意志を信じ抜くための、極めて能動的な設計でした。

仕掛けず決めつけず待つ設計
ふたりが自分の足でたどり着ける
自然な感謝のひとときを信じる

そのために私が力を注いだのは、準備期間そのものでした。クラウド上の共有シートを用意し、打ち合わせの場だけではこぼれてしまう感情や、まだ言葉にならない思いふたりが自由に残せるようにしました。プランナーとしてまとめてしまいたくなる瞬間は何度もありました。それでも決めつけず、急がず、ふたり自身の言葉が育つのを待ちました。アイデアがあふれる新郎と、周囲を思いやりながら言葉を探す新婦。その歩幅に合わせて進めるうちに、ふたりの思いは少しずつ熟し、やがて確かな軸を持ち始めていきました。私は、ふたりが自分で伝えられる人だと信じ、ご家族やクリエイターにも、ふたりの選択をそのまま受け止めてもらえる環境を整えていきました。

結婚式当日、最も大切な時間となったのは家族との対面でした。私はここでも、絶対に待つと心に決めていました。離婚したご両親が同じ空間にいることへの不安を抱えていた新婦は、準備期間を通して、自分の言葉で向き合う力を育てていました。そして手紙には、これまで大切に育ててくれたことへのまっすぐな感謝がつづられていました。その思いを届けた先に生まれたのは、誰も指示していない家族のハグでした。抱きしめてくださいと誰かが促したわけではありません。だからこそ、その瞬間は作られた感動ではなく、ふたりが迷い、悩み、逃げずに歩んできた道のりの先に自然と立ち上がった、かけがえのない時間でした。

その後の一日は、ふたりの生き方そのものが映し出される時間になりました。家族のように丸くつながる一日にしたいというコンセプトは、ゲストの空気をゆっくりとひとつにしていきました。ご家族や友人、親族の心を動かしたのは、私が用意した仕掛けではなく、ふたりが自分たちの力で選び、伝え、積み重ねてきた真実でした。私は、感動は作るものではなく、ふたりが自分の人生に向き合い、痛みや迷いを越えていく過程の先に生まれるものだと改めて確信しました。プロフェッショナルの仕事とは、目立つ演出を加えることだけではありません。ときには手を出したい気持ちを抑え、ふたりが自分の足で景色にたどり着けるよう、見えない場所で設計し、支え、信じ続けることでもあるのです。

プランナーの勇気が育てる
自分たちの未来を信じられる力。
それを獲得したふたりからの感謝

ふたりから届いた「この幸せが続いていると思えた」という言葉は、私にとって大きな答えになりました。結婚式で届けたいのは、一瞬の喜びやその場限りの感動ではなく、「私たちなら大丈夫」とふたりが自分たちの未来を信じられる力です。人は、誰かに与えられた答えだけでは変わりません。悩み、迷い、自分で見つけた答えこそが、これからの人生を支える確かな翼になります。だから私は、ふたりに自分の人生を信じてほしいと願いながら、そっと手を添えるプランナーでありたいと思っています。今回の仕事は、感動を生み出す技術の話であると同時に、ふたりの可能性を信じ抜く覚悟の共有でした。作らない勇気、待つ強さ、そして信じる設計。その積み重ねが、ふたり自身の人生を照らす結婚式を生み出したのです。

評価のポイント

柴田さんの発表は、プランナーの仕事とは何かを根底から問い直す内容でした。感動を作るために何かを足すのではなく、ふたりを信じ、待つための土台を準備期間から丁寧に築いていく。その姿勢に、プロとしての深い覚悟が感じられました。新郎新婦にしてあげることが、時にふたり自身の力を奪う可能性もあるという繊細な視点も印象的です。何をするかではなく、どこまでしないかを見極める設計に、新しいプランニングの可能性が示されていました。