リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Rough×Laugh ~結婚式が永遠の未来への懸け橋に~

私の役割は、2人の未来に向かうスタートラインまで伴走すること。
違和感から2人の気持ちを推察し、結婚式までの時間をもプランニング。

髙橋 鮎奈(たかはし あゆな)さん
宮の森フランセス(北海道)

サービスアルバイト経験を経て、共に働くメンバーに一目惚れし、同社へ入社。ウエディングプランナーになる夢を叶えて3年。お客様が自然と心を開きたくなるような環境づくりを、心がけている。

自身の生い立ちの複雑さから結婚への不安を抱える新婦
言葉がないから生まれる不安

 9年の交際期間を経た、優しく口下手な新郎と、気遣い屋の明るい新婦。ある日の打ち合わせで新婦から出た言葉に、私は違和感を覚えました。「結婚式はしておかないと不安。したからって離婚しないわけではないけど」

 打ち合わせのためのヒアリングをやめ、2人を受け止め、理解する姿勢に切り替えた私に、新婦がある日「知っておいてほしいことがある」と切り出しました。新婦には、複雑な家庭環境がありました。義父(母の再婚相手・母とは離婚)に引き取られ、実母には育てられていないこと。義父の再婚相手である義母とぎくしゃくしていること。義父と血がつながっていないと20歳で知ったこと…。疑いのない関係が突然崩れた経験から、心に不安を抱えているのかもしれないと、私は思いました。

 また2人の空気感も気になりました。新郎の反応をうかがい、曖昧な返事に不安そうな表情をする新婦。2人は想いを言葉にして伝え合えていないのではないか。希望通りの結婚式を創っても、新婦の不安を解消しなければ意味がない。信頼する新郎や家族とあうんの呼吸だからこそ、日々の中で想いを伝えていないことが原因だと感じた私は、結婚式に向けて気持ちを育む仕掛けを提案しました。

気持ちを育む3つの仕掛けで
新郎新婦、父娘、母娘の関係が少しずつほどけてまた結ばれる

 仕掛けの1つ目は2人の手紙交換。お互いが書いてきた手紙を、当日それぞれの部屋でゆっくり読んでもらう時間を作りました。ファーストミートで想いがあふれる2人。口下手な新郎からの「一生幸せにする」という言葉に見せた、新婦の嬉しそうな安堵の表情が忘れられません。

 仕掛けの2つ目。「なぜ育ててくれたのか、義父にずっと聞けなかった」という新婦のため、挙式前に「家族式」の時間を作りました。お互いの気持を受け止めてから家族式に向かえるよう、義父にこれまで育ててきた想いを綴った手紙をお願いし、2人にも親御様への手紙を依頼。義父の手紙には「娘の幸せがどれほど嬉しいことか」と、4枚の便箋に愛がびっしり綴られていました。手紙を読んだ後の家族式では、義父から「おめでとう」の一言。短い言葉にも大きな愛が感じられました。

 最も気がかりだったのは、新婦と義母のわだかまり。私は牧師先生に、事前打ち合わせでのカウンセリングをお願いしました。これが仕掛けの3つ目です。カウンセリング後、新婦から「義母にも結婚式で役目をお願いしたい」と連絡が。家族式の前に渡した手紙には、義母への謝罪の気持ちと参列への感謝、そして「今日はベールダウンをお願いします」の言葉がありました。義母も祝福。「すべての関係は育てることができる」という牧師先生の言葉が聞こえてくるようでした。

複雑な生い立ちから結婚に不安を感じ、おびえていた新婦。お互いの気持を手紙に綴ってもらい、相手の想いをしっかり感じてもらうために、ゆっくり手紙を読む時間を作りました。新婦の不安も解消。

大切なのはどんな気持ちで結婚式を迎えるか。
その心を育むことが結婚式後の未来をも豊かにする

 私が今回意識したのは、家族の未来構築でした。人の関係は、結婚後も変わるし、育て続けなくてはならないもの。でも今回の「想いを言葉にして伝える」経験は、不安を乗り越えたという強い自信につながったはずです。結婚式に向かう心の育みこそが、結婚式の価値を高め、その後の未来をも豊かにするのだと思います。当日を迎えるまでに、プランナーの役目は8割以上終わっているのかもしれません。

 以前の私は、コロナ禍の結婚式に前向きになれずにいました。でも今回、結婚式には人の心と未来を動かす力があると確信し、迷いはなくなりました。すべての新郎新婦が家族になっても2人でずっと笑っていられるよう、これからも結婚式をすることで幸せであり続ける人たちを増やしていきたい。強くそう思います。

「泣いて読めないけど、渡すだけならぜひ」と、手紙を快諾してくれた新婦の義父。血がつながらないながらも、「天使のような新婦のおかげで頑張れた。助けてくれてありがとう」と、手紙には愛があふれていました。

評価のポイント

髙橋さんが常に見つめているのは、「関係」の未来。もろいものだと知っているからこそ、結婚式に関わる全ての時間を使い、より強いものにしようとする祈りにも似た強い想いが心を打ちました。また、今回多く使われた「手紙」ですが、同じ手紙でも、いつ、どのように、どんな気持ちで読まれるかで、全く異なる時間が生まれます。我々はまだまだできることがたくさんあり、どのようにも結婚式を進化させることができると感じました。