リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

心の探鉱家 -自分と向き合った先にある景色

考え抜いた上での違和感を伝えることは、決してエゴではない。
深掘りすることで2人を自身の気持ちに気づかせ、価値ある式へと導く

梶谷 杏菜(かじや あんな)さん
(愛知県 エルダンジュ名古屋)

新郎新婦様の心の奥にある『素直な気持ち』を一緒に見つける事を大切にプロデュースさせて頂いております。結婚式の奥深さと美しさに魅了され続けています!

結婚式に意味を見出せない2人。
質問で深掘りし続け自身の気持ちに気付かせると、2人に大きな変化が

 かつて私は、この仕事に悩んでいました。「もっとこうしたほうがいいのに」という違和感を伝えるのは、自分のエゴでは?と提案を避け、御用聞きに徹した結果、プランナーとしての意義を見失ってしまったのです。他社プランナーさんに相談し、「あなたの好き・嫌いではなく、2人のことを真剣に考えたうえでの気持ちなら届けるべき」と言われたことで、私の価値観は激変しました。

 私が心機一転走り出した頃出会ったのは、「SNSで見た演出の寄せ集めのような結婚式に、意味を見出せない」と語る2人でした。私が自分を見失った時、他社プランナーは、答えが見つかるまでたくさんの質問をぶつけてくれました。だから私も「ひと掘りしましょう!」と2人を質問攻めに。式の準備をする中で、素直な気持ちに気づく経験をしてほしいと考えたからです。私に深掘りされるうち、やがて2人は自身と向き合う時間を増やし始め、素直な気持ちを話してくれるようになっていきました。

 そんな変化が表れた頃、新婦がお母様と衣装を選ぶことに。「結婚式は大好きな家族、特にお母様のため」と語る新婦は、お母様と自身それぞれが選んだ2着のドレスで悩み、決め切れずにいました。お母様を喜ばせたい気持ちに決断が邪魔されているのでは?と思った私は、ここでまたひと掘り。それぞれの長所、隣りに立つ新郎とのバランス、大切なゲストに見せたい姿…などについて質問を重ねました。自分の心に向き合い、素直な気持ちを口にする新婦。その姿を尊重するお母様の表情には変化が。そんな様子に安心し、新婦は自分で選んだドレスに決めることができました。お母様からは「気遣って周りを優先する娘が素直な気持ちを伝えてくれて嬉しかった」と感謝の言葉ももらい、新婦が着実に変化を遂げていると確信した出来事でした。

自分の素直な気持ちに気づき両親への手紙を希望した新婦。
温かい想いの溢れる式が生まれる

 ひと掘りの時間をたくさん作ったことで、いつしか2人は気持ちを具体的に伝えてくれるようになりました。そんな中、新婦が「両親に手紙を読みたい」と希望。血の繋がらないお父様への思春期の反抗的な態度を謝り、「お父さん」と呼びたい、と話してくれたのです。両親と向き合う姿を、悩んだ時支えてくれた友人にも見てもらいたい。でも新郎側のゲストには聞かれたくない、と語る新婦。挙式後、新婦側のゲストにはチャペルに残ってもらい、そこで手紙を読むことに。新郎側のゲストはセレモニーを行うガーデンへ先に案内し、新郎も一緒に過ごしてもらうことで、それぞれに配慮したスムーズな動線を作りました。直前に新婦から、手紙を読む主旨について私から説明してほしいと頼まれましたが、「まっすぐな気持ちを受け止めてもらうための時間です。頑張りましょう。そばにいます!」と笑顔で握手。無事、その想いをお父様にも友人にも届けることができました。

エゴを届けるという自分の変化が2人の大きな変化のきっかけとなり、価値ある結婚式を作る結果に

 今回の式は、「当日何をするか」以上に、準備期間で2人が大きく変化していく過程が重要でした。式は挙げたいけど「意味のある結婚式とは?」と迷っていた2人。徐々に自身の素直な気持ちを見つけていったことで、意味を見出せる式を作ることができました。2人の変化のきっかけは、私自身の変化です。「自分の気持ちを知らないのでは?」という違和感から生まれた「それに気づく経験をしてほしい」という私のエゴを伝えたからこその変化でした。

 皆さんにお伝えしたいのは、「今抱えている違和感やエゴは、お客様に届けてもいいんだよ」ということ。それには、ひと掘りが必須です。お客様の要望を掘り下げてみてください。宝物のように大切な気持ちに、きっと出会えるはずです。

評価のポイント

お客様とのやり取りで感じ取った「違和感」をうやむやにせず、その背景にあるものを掘り起こしていくスタイルに梶谷さんらしさが光っていました。それは、梶谷さん自身が原体験の中で学び得た「問いの力」を信じ、新郎新婦と向き合うことができていたからだと感じます。結婚式の準備過程を通じ、おふたりが自分らしい答えにたどり着けたのは、梶谷さんの「結婚式を通じて人との繋がりを強くする」という信念があったからなのではないでしょうか。