リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

love actually♪

ウエディングプランナーの仕事とは、
いろいろな形の“愛”を見えるようにすること

井上 志織(いのうえ しおり)さん
ザ・ミーツ マリーナテラス(千葉県千葉市)

プランナー歴7年。“お客様はわがままで当たり前”“背中を押す”“NOと言わない”ことを大切にしている。新郎新婦だけでなくその場にいる全ての人の人生をほんの少しでもいいから変えたいと日々笑顔を創っている。

世界中を仲の良い夫婦でいっぱいに。結婚式はそこへ向かう大切な出発点

 それまで私のプランナーとしての原動力は結婚に対するネガティブな想いでした。そしてこの新郎新婦との出会いが、本当の意味でいい結婚式とは何かを探るいい機会となりました。たどり着いた答えが今回のテーマ、「love actually」〝愛は実はいたるところにある〞です。
 新郎新婦はとにかく明るく楽しい方。しかし打ち合わせの最中、一度だけ二人の表情が曇った瞬間がありました。両親の質問をすると、「昔のほうが仲がよかった」と。このひと言が、私の耳に残りました。実は私自身、ケンカがたえない家庭で育ち、「一生仲のいい夫婦なんていない」と感じていたからです。自分のような経験はもう誰にもさせたくない、夫婦としてスタートを切る新郎新婦が、未来を不安に思わない、そのお手伝いがしたいとこの世界へ飛び込みました。「すべてのカップルが幸せな結婚式を挙げれば、世界中が仲の良い夫婦でいられる。その子供たちも、さらにその子供たちだって」。そんな幸せな世の中を創り上げたいという夢があったのです。

家族を思う心が会場中に広がり、あたたかな空気に包まれた瞬間

 だからこそこだわったのは、すべての愛を感じられる演出です。友達、家族、親族、みんなが大好き、だから全員に愛を伝えたい! 姉や弟、同僚との中座演出、いとこたちへのプレゼント、おばあちゃんへのプレゼントと、すべてサプライズで埋め尽くし、そこにはたくさんの驚きと喜びの表情が生まれました。
 しかし、新郎が突然体調不良になる、というハプニングが起こってしまいました。そこで、新郎の回復を待つ時間は新婦が家族とゆっくり過ごす時間に充て、「こんなにたっぷり家族写真に時間をかけるのはご新婦様だけです」と常に前向きな言葉をかけ続けました。
 そして、最後のサプライズ。当初二人が顔を曇らせた両親のために、私はとっておきのサプライズを提案していました。 新郎のお父様、新婦のお父様、そして新郎と男性3人が登場、その手には愛するパートナーを想って選んだバラが。「しげこ!」と呼ばれた新郎のお母様は、びっくりしながらもお父様からバラを受けとります。「ママ!」と呼ばれた新婦のお母様は頬を赤らめ、はにかみながらお父様のもとへ。そして最後は新郎から赤いバラが新婦へ贈られました。
 その様子にゲストのなかには「私もかみさんに花を買って帰ろうかな」という声もあがるほど、会場中があたたかな空気に包まれました。結婚式後、今までは行動が別々だった新婦の両親が一緒に買い物に出かけられたり、新郎のお父様は結婚式のムービーを見て涙されたり。二人の両親にも変化が起こっていました。

新郎父、新婦父、新郎の3人が揃ってそれぞれのパートナーへ花を贈呈。そのほほえましい姿に「今日、花を買って帰ろうかな」とゲストの心も温かく変化。出席したゲストの心まで変えてしまう愛の力はやはり素晴らしいと感じてもらうための演出でした。

プランナーの仕事は、未来を創り、未来を変えるきっかけを作ること

 私は、この結婚式を通じて、未来を創り、未来を変えるきっかけも創れることを知りました。親の顔から夫婦の顔に戻ったお父様とお母様や、奥様への花を買って帰ろうと思ったゲストの方々のように、結婚式に来ていたゲストの気持ちをほんの少し動かせたなら、きっといつか未来の大きな幸せにつながっていくはずです。ウエディングプランナーの仕事とは、いろいろな愛をカタチにして、見えるようにすることではないでしょうか。私はこの尊いウエディングという仕事に誇りを持ち、これからもたくさんの結婚式を創っていきます。

新郎が体調不良になるハプニングも新婦が家族と過ごしてもらう時間へとチェンジ。新郎は常に前向きな言葉をかけ、励ましました。

結婚式は、世の中を幸せな家族でいっぱいにする、大きなチャンス

 私がこの仕事を目指したのは、両親の不仲により自分が体験した悲しみをこの世からなくしたい想いから。結婚式は過去を振り返り、未来への決意を固めていく1日です。その1日をどう過ごしてもらうか、何を感じてもらうかを真剣に考えれば幸せな夫婦をたくさん作れるはず。すべての新郎新婦とその家族を自分ごととして捉えて関わっています。

審査員の目

 結婚式を通じて新郎新婦の未来を幸せなものにしよう、そう考えるのはもはや当たり前のことかもしれません。でも、そのご両親の関係まで考えるのは?井上さんにそれができたのは、見失った愛、言葉にしないとわからない愛を見えるようにし、常に愛を溢れさせたい、未来は変えられるという信念があったから。プランナーの役割の原点を思い起こさせる発表でした。(2015年10月15日更新)