父を憎む新郎と、サプライズで新郎を喜ばせたい父の間で
学んだのは、人生のスタート地点となる、満点ではない結婚式。
お酒と日帰り温泉が何よりも好きなブライダルコーディネーター。とっても嬉しいことにGWAは去年に続き二度目のファイナリスト。(ありがとうございます!)全国の仲間に元気と勇気を少しでも与えられたら…嬉しいです。
父と息子を隔てる大きな確執
大切な人を大切にする、という2人の希望は果たして叶うのか
要望は「大切な人をとことん大切にする一日」。繊細な新郎と人見知りな新婦の望みを聞き、さらに当日は新郎のお誕生日と知って、最高の一日にしたいと思いました。
ある日突然、新郎のお父様がご来館。フラッシュモブやマグロ解体ショーなど盛大なサプライズをしたいというご相談でした。そこでお父様の「息子には何もしてやれなかったからサプライズでお祝いしたい」という想いと、家族仲がよくないことを知りました。新郎にも尋ねると「僕に父はいません。死んだと思っている。今回も本当は呼びたくなかったのに」と。父を憎む息子と、望まれないサプライズを一生懸命考える父に、心がえぐられる思いでした。
私は新郎のお父様と新婦の3人で会い、お断りの旨を伝えました。お父様は激怒。しかしはっきり拒絶した新婦の言葉に「そうだよな、無理言ってすまなかった」と…。数日後「サプライズは全部なしにした」とお電話が。「俺は0か100の人間。何もしないよ」と言うお父様に、「関係修復がすべてではない」と伝えました。この結婚式を、2人と両家の「家族」という名の長い旅の始まりにしたいと私は考えました。
お父様の気持ちの大きな変化
そんな父のことを考える時間が新郎の心をも溶かし始める
当日の第一来館者は新郎のお父様。「気持ちが伝わるものを考えてきたよ」と手渡してくれたのは、手作りのバースデーケーキ!お父様は元パティシエだったのです。「0か100」と言っていたお父様の気持ちの変化に、私は涙が止まりませんでした。本番ではケーキの出番を作るために急遽挙式前に新郎の誕生日セレモニーを行うことに。ケーキを前に喜ぶ息子を、涙目で見つめるお父様の姿がありました。
挙式では牧師先生から、この先のご家族に必要な言葉を伝えていただきました。「人は、人を許すことで自分を許せる。人を許すことで大事な人を幸せにできる」。新郎の「なんだか心が楽になった」との一言を聞き、しっかり心に届いたと確信しました。
披露宴では新郎から大好きなお祖母様への手紙の後、こっそり用意してもらっていたアンサーレターを司会が代読。ここでも「大切な人を大切にする」が叶いました。
悩まされたのは、代表謝辞。2人の希望は新婦のお父様でしたが、私は「関係修復とは言いませんが、この機会にお父様のことを少しだけ考えてみませんか」と投げかけました。その後、両家の父にお願いすることに。お父様のことを考える時間が、新郎に自然と許容させたのです。謝辞の場に立てたお父様とご家族にとって、これからの関係への第一歩となった出来事でした。
- 新郎お父様手作りのバースデーケーキの出番を作るために、急遽挙式前に行った誕生日セレモニー。そこには笑顔で喜ぶ息子を涙目で見つめるお父様の姿がありました。
0でも100でもない70点
今は満点でなくとも将来の100点につながる結婚式を
結婚式が終わり、お父様からは笑顔で「ありがとね。ま、俺の盛大なサプライズがなかったから70点だけどな!」と言っていただきました。0でもなく100でもない、「70」。お父様の変化に、胸が熱くなりました。新郎からも「今回こんな結婚式ができたのは、宮川さんのおかげ。何十年ぶりかに父のことを考えた」という言葉をいただきました。
私は今回、「完璧にハッピーエンドの結婚式がすべてではない」という新しい考え方に気づくこともできました。100点の結婚式を作らなければとプレッシャーを感じる必要はなく、結婚式で100にならなくても、未来で100になる可能性へとつなぐことの大切さ。人生の最後に満点の人生だったと思ってもらうためのスタート地点となるような結婚式を作ることこそが、プランナーの介在価値だと思います。
- 両家のお父様が揃ってつけることが多いブートニアのプレゼントを提案し、ご両家揃った両親とのファーストシーンを実現。
評価のポイント
「『70点の結婚式』は、今回最高のパワーワードだ!」ある審査員の呟きです。結婚式の力を信じているからこそ、その中で問題を解決し、完璧なハッピーエンドで終えてほしい。そう思い悩んでしまうプランナーさんにとって、今回の発表はどこかほっとできるような、そして元気をもらえるものだったでしょう。決して諦めではありません。新郎新婦や家族の未来にゴールを動かすことで、今全力を尽くしてやるべきこと、できることの可能性が広がるのです。