リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

瞬き

嫌われる勇気をもって本音で踏み込み、3人で乗り越えた苦難。
本音で向き合えていなかった2人が、夫婦として歩み出せた結婚式。

芳賀 恵理(はが えり)さん
麗風つくばシーズンズテラス(株式会社ディアーズ・ブレイン所属)(茨城県)

「結婚式を創ること」に関して幅広い業務に携わり土壌作りをしています。どの新郎新婦にも私にはない人生観があり、刺激を受けます。おふたりの趣味を体験してみたりと、日常を楽しく過ごすことを大切にしています。

3人の間に信頼関係が生まれ
うまくいきかけた時訪れた不幸
本音の衝突から生まれた奇跡

 結婚式をしないまま入籍後2年が経った、映像カメラマンのご夫婦。結婚式に後ろ向きな新郎と、幼少より結婚式に強い憧れを持っていた新婦の温度感は正反対でした。「好きにしていいよ」と新婦の気持ちを尊重する新郎に対し、「2人で考えたいのに」という不満を口にできず、心を閉ざす新婦。うまく向き合えず、夫婦になりきれていない2人でしたが、私が代弁や仲介をするうち、3人に信頼関係が芽生えました。

 2人の心が開き始めた結婚式2カ月前、新婦の父が事故で意識不明の重体に。「結婚式のことは考えられない」と憔悴する2人。日程変更かキャンセルかの決断もできないまま日が経ち、キャンセル料は上がる一方でした。新婦に夢を諦めてほしくない一心で、私は覚悟を決めて言いました。「お父様が生きている今、結婚式を挙げる選択もあると思います」。私自身も望まない提案でしたが、状況に向き合ってほしいとの気持ちからでした。けれど新婦は「父のいない結婚式は、私がしたい結婚式じゃない」と勃然としました。新郎も軽蔑の目で私を見ていました。

 それでも望みを懸けて、私は出来上がった招待状を一枚渡しました。お父様の意識は戻ったものの記憶を喪失し、家族は失意。けれど、一枚の招待状がひと筋の希望につながったのです。お父様は「バージンロードを歩いて娘の夢を叶えたい」と懸命にリハビリされ、奇跡的に回復。わずかながら私の想いが届いたのだと嬉しくなりました。
私への信頼感も少しずつ復調。やっと私たち3人は、スタートラインに立てました。

『娘の夢を叶えたい』と懸命にリハビリされたお父様。娘を引き渡す瞬間、思いっきり抱きしめて「幸せになりなさい」そう耳元で伝えられたそうです。

壁を乗り越え共に歩み始めた2人らしい気持ちの表現に
会場も一体となって泣き笑い

 ある日、新婦の挙式のアイディアに対して新郎が「何も伝わらないのでは」と言い出し、新婦が黙り込む一幕がありました。結婚式前日まで3人で挙式を練り直し、なんとかお互いの関係性も安定しましたが、今度は新郎が無謀な主張を周囲に反対されて塞ぎ込む事態に。新婦からSOSを受けましたが、「彼の最大の理解者は誰?」と新婦に問いかけ、もう本音の代弁はしませんでした。新婦が新郎の心に一歩踏み込み、私が介入することなく、無事2人で解決できました。2人は確実に歩み寄り、夫婦として進化したのです。

 花嫁さんの人生を表した、新婦発案の挙式。私はその一瞬一瞬をゲストが心と自身の瞳で見守るお願いをしました。ドアの向こうをお母様のお腹の中に見立て「産んでくれてありがとう」の言葉と共に扉が開いて新婦が登場。お父様、お母様とハグをしてバージンロードを進む、幸せそうな新婦の姿がそこにはありました。

 一方新郎は、謝辞の途中、新婦にお付き合い当初のような愛の告白を。流れたエンドロールには、新婦の笑った顔や怒った顔など新郎目線で撮られた画像が溢れていました。夫婦っていいね、と誰もが照れ笑いしながら泣き、会場が一体となりました。

心のなかにある本当の想い
それを引き出し、2人が望む結婚式を作れるプランナーに

 後日、新婦から「心でなくては見えない大切なものを、結婚式でたくさん感じられた」とお手紙をいただきました。幸せも悩みも3人で分かち合った2年間。どの瞬間も相手と、そして自分と向き合うことは簡単ではないと学びました。また本音で向き合えていなかった2人から、夫婦として素直に生きることや一歩踏み込む勇気、愛情の表現方法など大切なことを教えてもらいました。ただ結婚式を作るだけでなく、2人の幸せを願い、一緒に人生のスタートラインに立ち、エールを送ったり手を差し伸べたりできるプランナーでありたいと、この結婚式を通して強く思いました。

挙式の一瞬一瞬を、カメラのファインダー越しではなく、心と瞳で見守ってくださいとゲストにお願いし、自然に湧きあがる拍手で全員の心が一つになりました。

評価のポイント

 結婚式の先に、二人の「夫婦としての未来」をじっと見つめている芳賀さん。だからこそ、時に嫌われる覚悟で問いかけ、時に問い返し、二人を向き合わせる温かい導きができるのでしょう。それはお客様を見る冷静な観察眼と、結婚式の空気を創り上げる緻密で高度なプランニングスキルがあるからこそ。審査員の質問に答えた「いつも『自分の結婚式ではない』と思ってプランニングしている」という言葉がとても示唆に溢れ、印象的でした。