リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

第1回 ブライダル×異業種対談 ~ブライダル業界進化の条件を探る~「業界の課題を打破する突破口は、アイディアを実行するスピード感と実現してくれる仲間をつくること。」リクルートブライダル総研 所長  落合 歩 × 相模屋食料株式会社 代表取締役社長  鳥越 淳司 氏

本文中は敬称略

伝統ある業界を改革していくために必要な視点とは何か
~多様化するカスタマーのニーズに応える経営戦略について~

これからのブライダル業界を見据え、多様化するカスタマーの変化に対応した戦略、組織の文化づくりや人材育成のための仕組みづくりなど、他業界の様々な先進事例を通してヒントを探る「ブライダル×異業種対談」。
第1回目は、日本の伝統食材である「おとうふ」をメイン商品として、数々のヒット商品を生み出している相模屋食料株式会社の鳥越淳司社長をお迎えして、「伝統は革新の連続である」という理念のもと、まさに革新的な商品開発によって市場拡大を実現されてきた貴重なお話を伺いました。

古くからある業界の中で、新しい流れを生み出す秘訣とは?

落合
今回は「伝統と革新」というものが大きなテーマとなりますが、ブライダル業界でいうと、婚礼の儀式で見れば、奈良時代からのものとなりますが、ブライダル産業としてみれば、戦後に大きく発展した産業ということになります。また、1990年代ぐらいまでは、結婚式をやることは当たり前だった時代ですが、昨今は価値観も大きく変わり、結婚や結婚式そのものを「するか、しないか」という選択になっているというのが大きな課題です。お豆腐は生活に根づいた食品だと思うのですが、どのようなことが業界としての課題なのでしょうか。
鳥越
豆腐の消費量は年々下がってきておりまして、7~8%ダウンしていくだろうと言われています。先ほどおっしゃっていた結婚式をするか、しないかという課題に照らし合わせてみると、豆腐を買うか、買わないかという状況が大きく変化しています。昔ですと、町の豆腐店があり、そこで豆腐を買うことが当たり前でした。ところが、スーパー主流の時代では、買うものは豆腐でなくても良いですし、買う選択肢からどんどんもれていくということが大きな課題です。いわゆる町の豆腐店は、年間1000軒ぐらいが廃業しているのが実態です。
落合
やはりカスタマー、消費者サイドのニーズの多様化は共通の課題ですね。ブライダル業界では、そうしたカスタマーの価値観の多様化に応じて、たとえば「形式ばらない方がいい」ということであれば、場所も演出ももっと自由な形にして、海が好きなら海で結婚式を行うような事例もあります。お客様の真のニーズは何なのか?を常に考えたプランニングというものが必要となっていますね。
鳥越
ブライダル産業は、我々の業界から見れば、華やかで最先端の業界に見えていましたが、やはり変化の波というものがあるのですね。豆腐の市場は6000億ぐらいあるのですが、市場が大きいから少しぐらい売り上げが落ちても大丈夫であるとか、若い人は豆腐を食べないから…というような言いわけをしていてはダメだと思っています。大切にしていることは「どうやったら食べてもらえるか」を考えること、そして何より、「この事業をやっている側が楽しいと感じられなければ続かない」という想いがあります。
落合
選択肢からもれていく危機感から、新しい行動を起こしていく必要があるのですね。
鳥越
以前は業界内にも、どうしようもないと思っている風潮もありました。しかし、私は逆に「誰も何もやらないのなら、やれば一人勝ちできる」と思っていました。マーケティングなど細かな調査・分析よりも、まずは誰よりもスピード感を持って行動することなのです。
今回はリモート形式の対談でしたが、業界を超えて想いを語り合う場に。

市場を広げるヒット商品を生み出すために必要な発想の転換とは?

落合
ブライダル業界は、人口動態の影響も大きく、20代~30代の人口が減少していく中、結婚式を実施する人の数も連動して減っていきます。
新郎新婦の「おもてなしをしたい」という想いは近年強まっているので料理なども含め、ゲスト1人にかける費用は長期的に見れば上がっているのですが、今後のマーケット全体の規模という面ではなかなか厳しい状況があり、これからの舵取りが難しくなっているのが現状です。お豆腐という商品で、単価を上げていく方法や市場を広げていくという面では、どのような取り組みをされていらっしゃるのでしょか。その際に、他社との競争を考えるのか、市場を広げることを考えるのか、どのような視点でやられていますか。
鳥越
弊社は平成17年頃より急成長してきており、ここ10年ほどは市場の拡大を目指してやっていますが、やはり初期段階では他社との競争を意識して他がやっていないことをやってきました。たとえば、ヒットした商品として『ザクとうふ』というものがあります。これは人気アニメの『機動戦士ガンダム』とのコラボですね。他業界でコラボをしているのを見て、私も大ファンだったので弊社でもやろうと考えたのです。できるわけないと考えるのではなく、思いついたものをやるのです。なぜなら誰も本気でやろうとしないからです。「自分が楽しいからやる」という視点はとても大事だと思っています。また、ガンダム40周年を記念して2020年6月に発売した「百式とうふ」では、プラモデルのようにお客様にソースを塗っていただく楽しみをプラスした商品にしました。中小規模の弱者の戦略としては、計算してやるのではなく、知恵と勇気と行動力がモノをいいます。
落合
やりたいと思うことを、できると思ってやり抜いていらっしゃるわけですね!市場の広げ方という面ではどうですか。
鳥越
その面では、7年前には無かった市場を生み出して、24億のヒット商品となった『ひとり鍋』シリーズがあります。豆腐を売るというよりも、豆腐料理を売るという視点です。ソースとなる「タレ」と容器となる「トレー」をプラスした商品で、本格的なスンドゥブや麻婆豆腐として販売しました。お客様からすると「おいしい豆腐料理」を手軽に買える豆腐惣菜のような感覚ですかね。
落合
そこには、どのような発想の転換や視点の変化があったのでしょうか。
鳥越
もともと豆腐業界は、顧客志向というよりも、ものづくりの発想で品質の良い豆腐をつくるということへのこだわりが強かったわけです。しかし、スーパーで買い物をされるお客様は0.2秒程で商品を選択していると言われているほど一瞬の勝負なのです。ですから、豆腐を買う行為の中にも、どの豆腐商品を買おうか迷っていただけるような仕掛けが必要だと思ったのです。ひとり鍋シリーズのような商品を投入することで、豆腐に対する選択肢を増やす。それこそが市場を広げることにつながっていったと思っています。
落合
新感覚の商品を発売されたことで、もともとの豆腐そのものの売り上げはどうなっていったのでしょうか。
鳥越
それが、従来の『木綿とうふ』の売り上げも合わせてアップしていったのです。豆腐というものへのお客様の認識をアップすることにもつながったのでしょうね。視点を変える、発想を転換するということをすれば、こんなにチャンスのある業界はないのではないかと感じています。やってみてダメならやめればいい。やることこそが大切で、スピード重視が最優先なのです。
業界の常識を破りヒット商品となった(左から)『ザクとうふ』『百式とうふ』、ひとり鍋シリーズの『豆乳たっぷりスンドゥブ』『山椒がピリッときいた麻婆豆腐 中辛』、『BEYOND TOFUキューブ』(相模屋食料株式会社・ホームページより:https://sagamiya-kk.co.jp/)

カスタマーの意識の変化、趣向の多様化にどう対応していくのか?

落合
カスタマーの意識の変化や趣向の多様化というものは、共通の課題であると思いますが、そうした変化にはどのようなチャレンジをされているのでしょうか。若い世代の価値観や感覚を事業にどう反映していくか、という点ではいかがですか。
鳥越
6年ほど前に、ファッションショーの「神戸コレクション」で、モデルの方に弊社の商品を持ってランウェイを歩いていただいたことがあります。当然、従来の豆腐を持っていただくわけにはいかないので、若い20代から30代の女性の感覚に合うチーズのような、ヨーグルトのような豆腐商品を開発したのです。それが『BEYOND TOFU』シリーズの始まりです。当然最初の頃は、なぜファッションイベントに豆腐なのか?という声が圧倒的でした。そこで新しい感覚のこの商品を配りまくりましたね(笑)。今では、東京ガールズコレクションにおいても、行列のできる人気ブースとなりました。
落合
今までのお話だけでもたくさんのトライ&エラーを繰り返されているのがわかりますが、エラーのケースもあったのでしょうか。
鳥越
もちろん失敗もありましたが、成功率は良い方だと思います。やはりスピードを重視してチャレンジしたことが大きいと思います。食品業界の中でも、たとえば牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの分野では、すでに新しいチャレンジが当たり前になっていて、どんどんスピードアップしています。伝統食品の分野では、変化するものではないという考えもあり、やらない傾向がありますね。
落合
昨今の若者世代の「結婚しなくてもいい」という風潮のある中で、我々のブライダル総研では、行政と連携して結婚をサポートするための施策もお手伝いしています。結婚だけを考えるよりも、どんな人生を過ごすのか、どんな選択をするのか、という視点に立ち、その中で誰かと過ごすこと、家族を持つこと、など視点を広げながら考えてみる。そうすると、結婚自体が自分ごと化し、捉え方も変わってくるのはとても面白いなと感じています。
話は少しそれますが、コロナの影響というものはどうなのでしょうか。ブライダル業界は、自粛期間中の4月~5月ぐらいには結婚式の延期が相次いで、厳しい状況が続いていました。業界全体で安全・安心への取り組みについての宣言を出すなど、共同で対策をしていました。一方で、婚活サービスへの影響は想定よりも少なく、逆にパートナーを求める傾向が見られましたね。こういう状況下で、誰に会いたいのか、誰が大切な人なのかを考える機会にもなったのだと思います。
鳥越
豆腐業界では、どうやって供給をつないでいくかという問題が大きかったですね。外食産業向け、業務用などの商品は壊滅的でしたが、市販向けの商品でなんとか持ちこたえてきました。しかし対面できない影響で、新規顧客取り込みの商談は減りましたね。お話にあったように、確かにこの時期は「誰が大事なのか、誰に会いたいのか」を改めてしっかり考える大切な機会だったと思います。

組織の文化づくり、人材育成・人材確保という面で取り組まれていることは?

落合
組織づくりという点では、商品開発の専門部署などはあるのでしょうか。
鳥越
商品開発は、私自ら思いついたことを現場と共有するという形でやっています。いってみればトップダウンなのですが、アイディアを現場が実現していくということです。女性社員1名を置いておりますが、まずはその一人に私の思いつきを共有してもらい、アイディアを形にしてもらいます。それを工場のスタッフと一緒に試行錯誤を繰り返し、工場での生産可能な最終的な商品につくりあげていくスタイルです。そうすることで、社員も自分たちでつくっていくという意識やプロセスを経ていくので、社内の抵抗感はありませんね。
落合
先ほどのヒット商品の『ザクとうふ』は、社内はOKでも、たとえば流通サイドから「これは売れない」というようなことにはならなかったのでしょうか。どうやって打破していったのかを教えていただけますか。
鳥越
最初のうちは、やはり「売れる・売れない」の議論はありました。私のやり方は「仲間をみつけていく」というものです。社内にしても、社外の流通などにしても味方につけることを考えています。そのベースは情熱だったりしますが、面白いことに賛同してもらうように動くことです。面白いと感じてもらえば変化に対する抵抗感がなくなります。今では、「鳥越は次に何をやろうとしているのか」を楽しみにしてくれているほどです(笑)。
落合
ブライダル業界では、人材の定着や確保ということがもう一つの大きな課題です。あこがれて入社してきてから理想と現実のギャップを感じてしまう「3年目の壁」と、自分のキャリア、結婚・出産などが現実化してくる「10年目の壁」があるのですが、豆腐業界では、そのような人材に関する課題はありますか。
鳥越
もともと、どうしても豆腐づくりをやりたいという人は少ないですし、あこがれてこの業界にくる傾向はあまりないのでギャップというものはそんなにないと思います。採用段階でのマッチングというよりも、入社後に楽しさを発見してもらうことの方が大きいと感じています。働いている人が仕事をやっていて楽しいと感じていれば、次に入ってくる人たちにも自分の想いを伝えてくれるようになります。

業界の課題を改革し、市場を活性化させる発想の起点となるものとは?

落合
最後に、今回のテーマのまとめでもありますが、業界の課題を改革し、市場を活性化させてこられた鳥越社長の発想の起点となっているものはどのようなことなのでしょうか?
鳥越
簡潔に言えば「四六時中、豆腐のことばかり考えている」ということですね。たとえば、スイーツの『ブッセ』を食べに行った際にも、豆腐でつくるとしたら、外側の部分は油揚げで工夫して、内側のクリーム部分はチーズ風の豆腐でいけるかな、などと「どうやったら、豆腐でつくれるか」ばかりを考えていますね。見たもの、食べたもの、行った場所で出会ったもの、すべてを豆腐に置き換えて思考しています。
落合
なるほど。何を見るにしても、豆腐というフィルターを通して見ておられるわけですね。
鳥越
あとは実際に形にしてくれる仲間がいるということです。思いつくことだけなら誰でもできますが、重要なことは、その想いを共有して実現してくれる人間がどれだけいるかということにつきます。幸い私には、その仲間たちがいてくれたということです。
落合
実現することありきで考え続ける、そして一緒に実現する仲間をつくる。これは、どんな業界でも共通する大切なことだと思います。
本日は、異業種対談という形でしたが、とても貴重なお話をありがとうございました。
相模屋食料株式会社 代表取締役社長鳥越 淳司(トリゴエ ジュンジ)
1996(平成8)年3月 早稲田大学商学部 卒業
1996(平成8)年4月 雪印乳業株式会社 入社 営業職
2002(平成14)年9月 雪印乳業株式会社 退社
2002(平成14)年10月 相模屋食料株式会社 入社
2004(平成16)年10月 専務取締役 就任
2007(平成19)年5月 代表取締役社長 就任

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