リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

ふたりという枠を越えた結婚式の意味
真のノーノーマルとは

結婚式での記憶は生きる勇気をくれ、時を超えて心の支えになる。
アプローチを変え、最後まで提案することを諦めなかった結婚式

黒崎 真希(くろさき まき)さん
(北海道 BLUE DIRECTION WEDDING PRODUCE(株式会社BLUE DIRECTION))

16年の式場勤務を経て2023年に独立。二人の最適を考え道標を標すパートナーとして改めてウエディングに向き合いたいという思いから、フリースタイルでプロデュースを行う(株)ブルーディレクションを立上げ活動中

大切にしてきたものが崩れたことが
プランナーとしての在り方・式のつくり方を顧みるきっかけに

 親のために結婚式をする、という都内在住・40代の2人。こだわりはなく、新婦の希望は理想のドレスを着ること・ウエディングロードは一人で歩くこと・プランニングは指定した人に依頼することでした。

 打ち合わせの第一声は、「カウンセリングとかコンセプトは嫌だから不要」。それは16年間私が大切にしてきたこと。大きな衝撃でした。なぜなら新婦は私の姉で、親友同然の存在だからです。家族だからこそスタンスに悩みましたが、妹ではなくプランナーとして依頼に応えることを決意。同時に「2人らしさを追求する」という言葉でプランナーとしての役割を正当化し、結婚式が多様化する一方で、結婚式の創りのプロセスが全然多様ではないのではと、自分のあり方を客観的に見直しました。

アプローチを変えることで2人の違和感を払拭。
目指す方向性に向けて一つずつ理想に近づけていく

 まずヒヤリングの方法を大きく変更。純粋に事実だけを教えてもらい、認識をすり合わせ。2人が意思表示しやすいよう事例を挙げ、選択肢を提示して可能性を広げていきます。これにより、両家とも1人親でお母様が当日を楽しみにしていること、地域文化の違いやゲストの年齢層が高いことに不安があることなどが判明。そこから当日までに母子の特別な時間をどうつくるか、ゲスト間の会話を生む仕掛けをどう行うかを模索しました。ウエディングロードを誰かと歩く提案もしましたが、「父の代わりはいないから」との答えに、新婦の熱い想いを知りました。このようなアプローチを繰り返し、見えてきたのは、結婚を決めた今しかできないことを大切にする2人の姿。結果的にこれがコンセプトとなり、目指す方向性が明確になりました。

 志すポイントは3つ。親子の時間をどう過ごすか・新婦の希望実現とすべての層が自由に楽しめる式をどうつくるか・2人に結婚式をわが事として大切に感じてもらうために何ができるかです。

 新婦母の夢を叶えるべく、撮影日が待ち遠しくなるよう別日の和装撮影から工夫し、衣装合わせは北海道で。会場は、大自然の中全員が開放的に過ごせるワイナリーを提案しました。亡きお父様との時間を増やすべく、ウエディングロードは長めに。挙式とパーティのメリハリをつけ、自由を楽しむ時間構成を意識。厳かな式から一変、陽気な宴が始まり、席を設けない場所でのケーキカットや祝杯など流れるような進行で、人々が自然に交わります。2人のわが事化に繋げるべく、宴は仲間との楽しい日常を再現しました。

 肉声で想いを届ける機会は、人生でもそうないこと。全員に感謝を伝える時間を設け、まっすぐな2人の言葉に心が温まったところで、距離を縮める記念撮影。1周年記念に開けられるよう、結婚証明書のラベル入りワインと互いへのメッセージを封印。未来の楽しみを設定することで、今日が第一歩だと実感してもらいました。こだわりがない2人から真意を探ることを諦めず、提案を繰り返したことで、特別な時間を磨き上げることができたと感じました。

ゲストとの新たな体験を創るべく施設に断られても諦めず実現した屋外バーベキュー。屋外だからこその解放感やゲストとの交流ができました。

提案することを諦めなかった
結婚式もたらしてくれたプランナーとしての変化と成長

 実は結婚式後、2人にはすれ違う出来事があったそうです。乗り越えられた理由を聞くと、「結婚式をしたから」とシンプルな答え。こんなにも素晴らしい人に恵まれていると実感した記憶が、心を支えてくれたそうです。結婚式がなければ出会えない未来がそこにありました。結婚式は何のためにあるのか。それは時を超え、心の支えとなる記憶に出会うためなのだと思います。家族としてプランナーとして、両方の側面から携わった今回の結婚式は、私が型を崩し変化するのを後押ししてくれました。これからも提案することを諦めないウエディングを提供していきたい。強く思います。

かけがえのない家族へのサプライズ。限られた親子の大切な時間を過ごしました。

評価のポイント

「自分の中にあるものを変えること」は時に勇気が必要で、決して簡単なことでなはいでしょう。黒崎さんは、キャリアと共に築いてきた従来の方法が通用しない壁に直面するも、自らのプランニング手法のアップデートに挑戦されました。新郎新婦の状況を丁寧に観察し、おふたりの選択のヒントとなる事例を最適なタイミングで提供しながら、共に可能性を追求していく。プランナーとして、進化への歩みを止めないことの大切さを教えてくれました。