3人の切なさから生まれた幸せな結婚式
誰かを想って動く心が、人生を変える力をもつくり出す
学生時代のサービスアルバイト5年の経験を経てプランナーに。お金より経験!「今」を1番楽しく過ごすことをモットーにしています。旅行・ドライブ・海・BBQ・パーティー、楽しいこと大好きです。
私の人生を大きく変えた親友からの1本の電話
憧れのプランナーになって2年目、仕事の楽しさを知った頃、母が亡くなりました。私は家族の愛に包まれた結婚式に触れることが怖くなり、こんな私がプランナーとして存在してよいのかと悩みました。もう辞めよう。そう考えた頃に親友が、私が働く式場と契約をしたと電話をかけてきたのです。新郎のお母様が働く別の式場で挙式するはずだったのに、私がプランナーを続けるきっかけになれば、と決断してくれた親友。私は喜びと同時に不安も感じました。けれど準備を進める中で、2人の結婚式への複雑な思いを知ったのです。
女手一つで育てられ、幼い頃から寂しい思いをするうち、自分の気持ちを伝えるのが苦手になった新郎。彼は愛に包まれて気持ちを伝え合う「結婚式」に、意味を見出だせずにいました。「結婚式にお母さんを取られた」と、忙しすぎる母の職業を憎んでいたことも。また新婦にも、父への想いがありました。
10年前、痴漢に遭った娘のためにと犯人を捕まえたものの、人違い。頭を下げた父の苦い思い出に家族全員触れられずにいましたが、新婦はこの機会に感謝を伝えたいと考えていました。
2人も私同様、幸せの中に切なさを持っている。私は、私にしかできないウエディングを2人のためにつくりたいと思いました。提案したのは「Only to Day」。【この日だけは】自分の言葉で想いを大切な人へ。【この日だからこそ】今日が奇跡であることを感じてほしい。切ない気持ちを持つからこそ、今日の幸せをより感じられるということを、その場のすべての人に伝えられる1日にしたかったのです。
切なさを知るからこそ工夫できたそれぞれの想いを晴らす演出
まず考えたのは、「始まり」の演出。薄暗くなる冬の夕方、ゲストの席に命を意味するキャンドルが灯され、それを全員が一斉に吹き消すと、会場は一瞬で真っ暗に。その瞬間2人が入場! 切ない空気から、一気に幸せが広がりました。この演出で伝えたかったのは、人は何度でも生まれ変わり、幸せになれるということです。
新婦がお父様に感謝を伝える場は、鯛の塩釜開きを。一緒に塩釜を開くことで、幸せな未来も開けるようにと想いを込めました。嬉しそうなお父様の表情。言葉以上に新婦の感謝が伝わったと確信しました。
一方、想いをどう伝えたらよいのか悩んでいた新郎。中座相手を尋ねる際、「どなたと歩きたいですか」ではなく「この日だからこそ想いを伝えたいのはどなたですか」と聞きました。答えはもちろんお母様。また交渉の末、お母様の会場の衣装を持ち込むことに成功。中座の場で新郎はマイクを握り、「母さんの仕事、最高やね」と口にしました。涙が止まらないお母様を見て、「幼い頃の寂しさも、このひと言で瞬時に幸せな時間に昇華したと感じられました。
- ゲスト全員に協力してもらった、キャンドル演出。新婦から、「人は何度でも生まれ変わるという意味が演出に込められていて、この時間は奇跡の積み重ね」ということを説明してもらいました。
誰かのために動くからこそ人生さえ動かす大きな力が生まれる
退場後、私は2人と全スタッフに伝えました。プランナーを辞めたかったこと、今日を迎えることに葛藤があったこと。でもその切なさゆえに2人の結婚式をつくることができ、今が幸せだということ。この日だからこそ伝えたかったことでした。
結婚式とは、「誰かのために」が詰まった1日です。たくさんの人が誰かのために動くからこそ心が動かされるのです。主役だけでなくゲストやプランナー、スタッフの人生まで変えてしまう力が結婚式にはあると、今回私は知りました。切なさの中にいた私も、誰かを想って結婚式をつくることで自分を変えられました。2人がいてくれたからこそ、今私はここに立っています。
- 母を失った切なさの中にいた自分にとって、この式は大きな節目の1日に。必要なのは、誰かを思って結婚式をつくること。それに気づいたことで、自分を変えることができました。
評価のポイント
幸せと切なさ、死と再生、大切なものへの愛憎。通常の結婚式では扱わないような大きなテーマをプランナー歴2年目の槇林さんがまるごと受け止め、魅力的かつ必然性のある演出に昇華したその力量に驚かされました。「誰かを想う気持ち」によって迷いを振り切り、自身を成長させ、その気持が周囲のスタッフにまで伝播していく。ウエディングの仕事に関わる喜びをも強く感じさせてくれる発表でした。