リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

結婚式の力

プランナーの仕事は、結婚式を作ることだけではない
“向き合える夫婦”へと導く大事な役目も担う

江口 美久(えぐち みく)さん
城山観光ホテル(鹿児島県鹿児島市)

プランナー歴7年。2 0 0 7 年に城山観光ホテルに入社。現在26歳で1児の母。常に、新郎新婦の雰囲気、ペースに合わせて、居心地のいい時間を作ることを大切にしている。

同じ方向を見ていない二人。打合わせは波乱含みのスタート

 可愛いらしい息子さんのご両親でもある新郎新婦との打合わせは、最初から波乱の予感がしていました。「結婚式は見世物になるみたいで恥ずかしい」という居酒屋経営者の新郎。新郎のことが大好きで、新郎を常に立て、打合わせで自分の本音が言え ない新婦。新婦が問いかけても、新郎は携帯電話をいじりながら「それでいいんじゃない?」と返すだけ。次第に息子さんはぐずり始め…打合わせどころではありませんでした。「結婚式の前に夫婦として向き合ってほしい。結婚式という同じ方向を向いてほしい」そう思った私は、二人のために何が できるか考え続けました。ふと、そもそも新郎が結婚式に興味がないのは、結婚式に価値を感じていないからではないかと思い、結婚式にも、その準備にも意味があることを伝えようと決めたのです。

愛する息子さんが立合人となった結婚式。誓約書の承認は息子さんの手形、家族の絆を深めるベビーリングの贈呈、誓いのキスは息子さんを挟んで。披露宴では新郎から新婦へ「仕事ができるのは笑顔の由希奈(新婦)がいてくれるから。その笑顔が消えないように俺は頑張ります」と感謝の言葉が贈られました。

愛息子を立合い人に。〝家族になる〞人前式

 「結婚式の準備は時間がかかる。でも、その費やす時間だけが教えてくれることがあります。手書きで招待状や席図表を書く、生い立ち映像用の写真を集める…全て、自分たちが多くの人に支えられてきたことを実感するかけがえのない作業です」と、経験から私はお話しました。すると、その日もお願いしていた準備をされていなかった新郎が「今、書いていいですか?」と白紙だった席図表に黙々とゲスト名を書いてくれました。また、新郎は仕事柄昼夜逆転の生活で、そもそも二人が揃う時間は貴重。そこで個室でリラックスした雰囲気で打合 わせできるようにしたところ、新郎は携帯電話を置き、新婦としっかり話し合うようになりました。そして私は、常に二人を笑顔で待つようにしました。自分たちが来ることを楽しみに待っている人がいれば、来たいと思うようになる…回を重ねる毎に、遅れる事も多かった二人は時間通りに来てくれるようになりました。
 そして遂に「披露宴でベストドレッサー賞をしたい」という新郎の言葉が出たのです。変わったことをしてゲストを喜ばせたいと、照れながら話す新郎の気持ちが嬉しくて、私はすぐに進行に取り入れました。打合わせも活発になり、二人が夫婦として一つになり始めた頃、私もそれまで温めていたアイデアを提案しました。いつも二人のそばにいる、愛しい息子さんを立会人とした人前式。二人が夫婦になった姿と同時に、一つの家族になる姿をゲストに見てもらいたい。二人は喜んで賛同してくれました。

新郎が自ら語った周囲への感謝の言葉に会場が感動に包まれました

さらに二人の背中を押した結婚式の力。「やっと家族になれました」

 ところが、結婚式まであと数日という日、大粒の涙を流しながら新婦が一人でやって来ました。「江口さん、結婚式をする意味ってあるんでしょうか?」結婚式準備の些細なことで衝突してしまった二人。式をしなければ、喧嘩をしてぶつかり合うこともなかった…。その日は打合わせをやめ、同じ女性として母として、ただ頷き、時には一緒に愚痴りながら、新婦の想いを全て吐き出してもらいました。数日後、三人は笑顔で現れました。あの日、帰宅すると「忙しい中に準備をしてくれてありがとう。ごめんね」と新郎に伝えた新婦。相手を想い、自分の身を振り返れた。新婦の成長も感じた深い言葉でした。
 結婚式当日、新郎は謝辞で「人は誰かに支えられ、支えることで成長する。支えられていることに感謝し、生きていきたい」と周囲への感謝を語りました。結婚式後、新婦はメールを送ってくれました。「私達、やっと家族になれました」。これまでは交際の延長線上で家族になりきれていなかったが、結婚式をして変わったと。二人が変われたのは、これまでの感謝と、これからの決意を伝えられる結婚式という場のお陰。結婚式には、本当にすごい力があると実感しました。

向き合うことのできた夫婦の結婚式は、その意味と価値を未来へ繋ぐ

 新郎新婦は結婚式を迎えるまでの過程で、多くの人の支えに気づき、本音でぶつかり合い、想い合い、本当の夫婦・家族として成長します。プランナーの役割は結婚式を作ることだけでなく、新郎新婦を向き合える夫婦に導くことだと気づかされました。向き合うことのできた夫婦の結婚式は、意味、価値のある結婚式となって、必ず未来の子どもたちに受け継がれていくはずです。

審査員の目

 婚姻届を出し、一緒に生活し、子供が生まれてもまだ「本当の夫婦」とはいえない。そんなカップルが実は少なくありません。結婚式は二人の向き合い方を 変える力が確かにあります。でも、それを正しく動かすのは「プランナーの力」です。そこには江口さんのような、自らの経験や二人への共感力・理解力を備えたプランナーの人間力が最も必要とされるのではないでしょうか。(2014年9月30日更新)