定番の進行表を手放して見えてきた、2人にとっての大切な時間。
プランナーとしての向き合い方さえも変えた、「当たり前」からの解放。
2011年にブラスへ入社。チーフプランナーを経て、現在はエグゼクティブプランナーと副支配人を兼任。1組1組の新郎新婦に心から寄り添い、「言葉の奥にある本心を汲み取ること」を日々大切にしている。
今さら結婚式をするつもりがなかった新郎新婦
2人にとっての「不必要」を削ると進行が成立しなくなってしまった
「結婚式ではあるけど、結婚式じゃなくていい」これが2人に初めて会った時に言われた言葉でした。10年の交際期間を経て入籍し、結婚式をするつもりはなかったという67歳の新郎と52歳の新婦。2人を祝いたい新郎親族からの、式場への問い合わせ電話が始まりでした。
2人の認識は「軽いお披露目と両家の顔合わせ食事会」。聞けば2人にとっては「やる必要のないこと」があまりに多いとわかりました。それらを進行表から省くと、残るのは入場と退場のみ。打ち合わせには欠かせない、1日の流れを事細かに記した進行表。でもこれは2人が考えるイメージと乖離しているのかもしれない……。そんな時、2人から「流れはプロに任せるよ」と言われ、私は思いきって進行表を見せるのをやめました。2人がより向き合いたい気持ちにだけ向き合えるのではないかと考えたからです。まずは「したいこと」ではなく、今まで見た結婚式について聞きました。すると不思議と2人から「こんなことはできる?」と前向きな言葉が出るように! 少し光が差した気がしました。
- 進行表を手放したことで、結婚式の「当たり前」から自由になり、2人にとって大切な時間を生み出すことができました。
後々までカタチとして残るものを。
2人にとって本当に大事なことが進行表がないことで見えてくる
2人にとって意味のある時間にするためにも、思い出をカタチとして残すことが大切。そう考え、何か残せるものはないか尋ねました。すると「他界した彼の母の指輪を譲ってもらえるの。素敵でしょ!」と新婦。挙式では指輪交換が当然と決めつけていた私は、結婚指輪より2人にとって意味のある指輪の存在を知りました。それは、新婦を迎え入れる新郎家全員の気持ちの証。そこで「指輪の受け渡し」という時間を新たに提案。その際には新郎を父親のように慕う甥御様に新婦歓迎の言葉をいただくことに。2人からも「いいね、それ!」と賛同してもらいました。親族紹介を挙式の中で行うことも提案すると、「そういうのもいいんだ!」との返答。「親族紹介は挙式前にやるもの」という思い込みを捨てる選択肢に、進行表から離れたことで初めて気づくことができました。
披露宴も「やる必要のないこと」だらけ。ここまでくると私に迷いはありません。「いっそ新郎新婦の入場もやめましょう」と、ガーデンでの撮影後、親族と一緒に自然と会場入りする流れを提案。時間に縛られることなく、思いのままに過ごしていただけるよう工夫しました。
- 「他界した彼の母の指輪を譲ってもらえるの。素敵でしょ!」と新婦。結婚指輪より2人にとって意味のある指輪の存在を知りました。
2人の気持ちに少しずつ生じた思いがけない変化。
結婚式が2人にとって意味をもった瞬間に
結婚式への2人の向き合い方が、確かに変わってきたのを私は感じていました。いつも賑やかな新婦が、ファーストミートでいざ扉前に立つと「緊張してきちゃった」といつもとは全く違った表情に。扉が開いた瞬間、「この先ずっと一緒に生きていくんだと実感したら泣けてきちゃった」と新婦。一方の新郎も「気持ちのけじめがついたよ」とおっしゃいました。結婚式後には「正直『今さら』と思っていたけど、祝ってくれる人がこんなにもいることを実感。うまく言えないけど、結婚式ってすごいね」とも。2人にとって、結婚式が確かに意味を瞬間でした。
価値観の多様化によって結婚式の優先順位が下がりやすい時代。今回は進行表を手放したことで、結婚式の「当たり前」から自由になり、2人にとって大切な時間を生み出すことができました。結婚式というこんなにも素晴らしく価値のある一日から、誰一人目をそらさずにいられる未来を創っていきたい。その未来で結婚式は、より多くの人の人生を輝かせ、なくてはならないものに進化していく。そう信じています。
評価のポイント
進行表から不要を省く作業、それは2人にますます結婚式をする意味を見失わせる時間になったかもしれません。進行表を捨て、白紙から組み立てる覚悟を持てたからこそ、2人は結婚式に向き合え、プランナーは本当の意味で自由になれたのです。田端さんの発表は、無意識に囚われている枠はないか、それを捨てる勇気はあるかを聞く人自らに問う機会となりました。価値観の多様化が「結婚しない」に繋がるべきではない、この言葉が力強く心に響きました。