リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

Dear Wedding

ハンディキャップのある方も、 全員で楽しめる結婚式にしたい。

原 知世(はら ともよ)さん
佐賀県・ブリーズレイ・プライベートテラス

プランナー歴5年。スタッフとのリレーションシップを大切にし、周りのスタッフへの感謝の気持ちを忘れないようにしている。たくさん相談する中で、二人の想いを伝え、さらに自分の想いも伝えることで、理解・共感をしてもらうようにしている。

聴覚障害をお持ちの新郎新婦とスケッチブックを通じてシンクロする。

 この結婚式の新郎新婦は、実は聴覚に障害をお持ちの二人でした。二人と初めてお会いする時に、そのことを知りました。私はまずはお客様を理解し、お客様にシンクロする姿勢を大切にしています。聴覚に障害をお持ちの二人とどのように心を通わせるか、その答えがスケッチブックでした。見学中、二人と無我夢中でスケッチブックで言葉を交わし、ご見学が終わる頃には、1冊のスケッチブックを使い切っていました。その後の打ち合わせでも、スケッチブックを通して、二人の人生に真正面からぶつからせていただきました。最初の打ち合わせで二人から、海と星空が好きとお伺いしました。日常では音の聞こえ方にハンディのある方も、そうでない私たちも、海の中では同じ。だから静かな海や夜の星空の世界が特別で大切なものなんだと二人の思いを改めて理解することになりました。もう一つ感じたのが、二人のお互いに対する思いやご家族、ご友人の皆様への深い愛情です。そこですべての大切な方へ「Dear」(親愛なる)の思いを込めて、ディア・ゲスト、ディア・ファミリー、ディア・パートナーの3つで結婚式を作っていこうとご提案しました。
 ディア・ゲストのポイントは、聴覚にハンディを持つゲストへどのように情報を伝えるか。これには要点筆記と手話通訳という方法をとりました。家族へのディアでは、感謝と思い出づくりのシーンを通じて家族の絆を確認。ディア・パートナーでは、お互いとすべての人に向けて、「自立した夫婦のスタート」の場面をつくることにしました。

二人の耳が不自由なことをお伺いし、すぐに1冊のスケッチブックを買いにいきました。二人が伝えたい、思った、感じた、ということを、二人に書いていただき、担当の私もそのノートにアドバイスやご提案を書き、それをまとめ、それぞれの意思を1 冊の「打合せノート」にまとめることで、お二人が納得いく打合せを進めていきました。

それぞれ障害の状況が違うゲストに進行を伝える、手話通訳と要点筆記。

 待ちに待った結婚式。二人のチャペル入場では、ディア・ファミリーとして、新婦の弟様に立会人となっていただき、結婚宣言と誓約書へのサインを行いました。そして指輪の交換では、ご親族のお子様がリングボーイをつとめました。
 またディア・ゲストとして、すべての方に進行がわかるよう入れた、手話通訳と要点筆記。聴覚に障害のある方は、約100名のゲストのうち、40名ほど。聴覚障害といっても状況は様々で、手話を使われない方もいらっしゃり、進行の様子をタイピングしてライブ中継する要点筆記は、必要不可欠でした。手話通訳と要点筆記、この2つが揃って、結婚式をすべての方に楽しんでいただくことができたのです。

平衡感覚の弱い新婦のサポートチームを結成。ドレスやブーケの改良、次の動きを伝えるミニカンペ等でサポート

祝福や感謝の気持ち、二人の思いがすべての人に伝わるように。

 披露宴でも、すべての祝辞や余興に手話通訳と要点筆記を入れて、リアルタイムにゲストの皆様のお気持ちや祝福が伝わるようにしました。いつも温かく見守ってくれた、お母様とサプライズの中座では、しっかりと握られた手と手に会場が静かな感動に包まれました。さらにテーブルクロスを海の色のブルーに、そしてプラネタリウムで会場を満天の星空にした「海と星空の演出」で、二人の思いを叶えました。星空の下、集まった皆様すべての幸せを祈ってのキャンドルブレス。ご友人の余興ではスクリーンに歌詞を映し出して、ハンディキャップのあるゲストも全員で楽しめるようにしました。
 披露宴の最後は、ディア・パートナー。手話のできない新郎が必死に練習した手話での感謝の言葉、会話のほとんどが手話である新婦への心からのプレゼントでした。新郎新婦から頂いた感謝状、全員で撮った記念写真。二人にとっても、そして私にとっても最高の一日になりました。披露宴が終わり、スケッチブックも最後のページに。二人と出会えた奇跡や、二人の努力の上に訪れた幸せな時間への感謝の思いを綴りました。こうして、ゲスト、ファミリー、パートナー、それぞれの思いを叶えることができたのです。

心の中の思いにシンクロする

 私がプロデューサーとして大事にしていることは、新郎新婦の背中を押すことです。お二人の心の中にある思いをシンクロして感じ、その思いをカタチにするために私が存在するのだと思っています。そして、この時、多くのブリーズレイスタッフに支えられ、力をいただき、お二人の夢を叶えることができました。どんなハンディを持つ方でも、ためらわずに結婚式をあげていただくよう、今後も努力してまいります。

審査員の目

 今結婚式で何が行われ、二人が何を思い何を伝えたいのか。それを参加者全員が同じように感じ取れること。その一見当たり前のことが一番難しいのです。手話通訳と要点筆記の用意も、海と星空の演出も、すべてそのためのものでした。どんなときも、最も必要なのは心から二人にシンクロする姿勢だということを実感させられる発表でした。(2012年10月22日更新)