リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

一期一会の出逢いに感謝

良い結婚式は人を変え、その後の人生を豊かにする
だからこそ、二人が自身で答えをみつけてほしい

原田 温子(はらだ あつこ)さん
グローヴ ウィズ アクアスタイル(北海道札幌市)

プランナー歴7年。まずは徹底的に二人のことをカウンセリングし、二人を理解し、信頼関係をつくる。二人の良きパートナーとして、ときには二人の要望に待ったをかけたり、叱ることも。

「お金をかけるから、いい結婚式にしてください」

 この衝撃の一言から始まった二人との打ち合わせ。新郎新婦は、これまで良いと思える結婚式に出会ったことがないから、とことんお金をかけて、ゲストが楽しめる、派手な結婚式をしたいと、オプションリストから高い商品を選びはじめたのです。お金をかければいい結婚式ができる、この認識を変える必要があると確信した私は、まず自分たちの結婚式の意味を考えていただくことから始めました。結婚式の話は一切せず、二人の過去について様々な角度から質問し二人の価値観やライフスタイルを聞いていきました。すると様々なエピソードから、二人が周りの方々にとても恵まれているということが見えてきました。しかし二人から感謝の気持ちを伝えたいという言葉は一度も出ませんでした。でも私は思ったのです。どう表現すればいいかわからないだけで、二人は周りの方々との出会いに感謝している。ただそれを私から二人に直接的に伝えても、心からの感謝にはならない。いい結婚式へと導くには、二人が自ら答えを見つける必要があり、それがその後の二人の力になる。そう確信し、そのサポートに徹することにしたのです。

支えている方々の存在の大きさが新郎には伝わっていないかもしれない。そう感じた新婦からのサプライズ映像。大切な方々から綴られた新郎宛の手紙に、新郎は涙を流し、自分の人生を支えてくれている方々へ、立派な謝辞を述べられました。

二人を支える存在と感謝の気持ちに気付いていただく3つのステップ

 最初のステップは、少し見方を変えることで生まれてくる感謝の気持ちに気付いていただくこと。そのために出会いのきっかけをロゴにすることを提案しました。実は新郎が友人から「クマのキーホルダーをカップルにしたら、彼女ができるかも」と言われ実行したところ、翌日新婦に出会ったそうです。私の提案に二人は最初ピンと来ていないようでした。しかし、このキーホルダーをモチーフに作成したロゴを様々な場面で使ううちに、影で支えてくれた友人や久しく忘れていた大切なものの存在に、改めて気付きました。そして出会いのきっかけをくれた友人に感謝の気持ちをもつようになったのです。
 次のキーワードは猿払村。この村で生まれ育ち、今も暮らす漁師の新郎。彼と出会うまで村には全く縁のなかった美容師の新婦。それぞれを支えている存在に気付いていただくステップです。私は、二人の普段の村での様子を自分たちで撮影し、VTRにすることを提案しました。二人はこのプロセスで自分たちの恵まれた環境に、そして周りの方々に生かされていることに気付き、感謝の気持ちがどんどん膨らんでいったそうです。

クマの頭にあったティアラを、二人のイニシャルにあしらったロゴ。出会いのきっかけに何度も触れ、支えてくれた人たちの存在に気付く

二人が自分たちで見つけることが人生に大きな意味をもたらす

 最後のステップは、あえて提案はせず、二人を見守ることでした。二人は確実に変化していました。どうゲストに感謝の気持ちを届けるか、結婚式の本質を探るようになっていたのです。そして二人ならではの心に響く演出が生まれました。新郎に、支えてくれている方々への感謝をより深めてほしいと、新婦からサプライズVTRの提案もありました。
 式後にいただいた二人からの手紙にはこうあります。「この結婚式のおかげで、価値観や人への思いやりの気持ちが変わりました。お金で買えない価値を生みだしていただき、心より感謝しております」と。新婦は来年、猿払村に小さな美容室をオープンされるそうです。少しでも村に貢献したい、一期一会の人との出会いを大切にしたい、そんな思いが芽生えたからだそうです。この結婚式は二人が自分たちで決めたもの。そして自らみつけたテーマは、人生において大きな意味をもたらすのです。

結婚式を通じて、二人だけの大切な価値観を生みだしていきたい

 プランナーの役割は、結婚式を企画し提案することだと言われています。ただ私は、今回のように二人が結婚式の意義を考えることを通して、一期一会の大切さに自ら気づき、結婚式の後の人生までも豊かにする。そんな二人にとって大切な価値観を生み出していけるよう導いていくことも、これからの時代に必要なことだと考えています。いい結婚式は人を変え、その後の人生を豊かにします。結婚式を通して二人だけの大切な価値観を持ったカップルをこれからも増やしていきたいです。

審査員の目

 当初のご要望どおり、ただお金をかけた結婚式をしていたとしたら、同様に「結婚式の意味」に気付かない新郎新婦を生み出していたことでしょう。寄り添い、時には距離をおきながらカップルを導いた今回のプランニングは、未来のブライダルのあり方まで意識したとても高い視座によるものでした。また、そのステップが整理され言語化されている点が高く評価されました。(2013年9月30日更新)