リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

家族のチカラ ~the power of family~

熱意を切らすことなく、無我夢中で説得を続けた日々が
結婚式の中で数々のターニングポイントを生み出す。

牧田 綾香(まきた あやか)さん
ラヴィール金沢(石川県)

中小企業で約2年半勤め、接客業への憧れからブライダルの世界へ。お客様との何気ない会話から出るいくつものヒントを結婚式当日にカタチにすることが何よりもやりがいです。趣味はスタッフとの飲み歩きです。

互いに交差する家族への想い
諦めずに何度もかけあい、引き受けた願いを叶えていく

 6歳でご両親が離婚し、それ以来お父様に会っていないという新婦。お母様が長年過ごされているパートナーを「お父さん」と呼ぶ新婦ですが、実のお父様に対する特別な気持ちも私は感じていました。

 ある日、新婦のお母様から「結婚報告で20年ぶりに父親と再会した新婦が、感動で号泣。こんなに喜ぶなら、結婚式でも会わせてあげたい」とお電話が。新婦からはお母様の幸せを願う気持ちも聞き、互いを想い合う親子の力になろうと心に決めました。

 一方気がかりだったのは、結婚式に対して後ろ向きな新郎。2人は中学からの仲で、両家の親御様から「そろそろ」と言われたのが結婚のきっかけで、新郎からのプロポーズはなかったのです。新郎の親御様も心配な様子で、「けじめと覚悟のできる結婚式」を望んでおられました。そこで私は新郎にファーストミートで、改めてブーケを贈り、プロポーズすることを提案しました。しかし説得を重ねても新郎の返事はノー。当日「今日以外に伝えられる日はないんです」と最後の説得をしたところ、「仕方ないっすね。牧田さんしつこいですよ」と笑いながら観念してくれたのです。「結婚してください。一緒になってくれてありがとう」とブーケを渡す新郎。その表情は、達成感に満ちていました。

 新婦と実のお父様との再会は、サプライズに。遠慮して断るお父様に、私は何度も電話で説得しました。当日ご親族と顔を合わせないことを約束し、ついに11回目のお電話でOKをいただけたのです。お父様が夏生まれの新婦に選んだ花束は、新婦も会場装花に選んだひまわり!20年以上離れていても通じ合う心に、私は目には見えない「家族のチカラ」を感じました。

 お父様が登場した瞬間、泣き崩れる新婦。お父様は娘に「おめでとう、きれいや」、新郎には「娘を頼む」と声をかけました。その後の挙式では母にベールダウンしてもらい、育ての父と共に歩く姿。ゲストにも、式場を行き交う家族の想いが作る温かさを、感じていただけたはずです。

ひまわりを手にしたお父様の登場に、泣き崩れる新婦。「実父にもドレス姿を見てほしい」という夢を叶えた瞬間は、スタッフまでもが涙してしまう、温もりに満ちていました。

親から子へ、子から親へ
幸せへの願いを連鎖させ、最後の奇跡を起こす

 実は、ご結婚はまだの新婦のお母様にも、ひそかに幸せの始まりを感じてもらいたい…と私は頭を悩ませていました。そこで「両家の父から母へ感謝を伝える時間を設けたい」という新郎唯一の希望に相乗りし、新郎にMCを頼むことで「家族のチカラ」が起こす奇跡に賭けることにしたのです。

 当日、まずは新郎のお父様からお母様へ感謝のメッセージ。次に新婦お母様のパートナーからも感謝の言葉に続いて、「このチャンスに言わせていただきます。正式に一緒になろう」と奇跡の言葉が!この仕事に出会えてよかったと思える瞬間でした。

 さらに「家族のチカラ」が新郎の心を動かしました。本音を伝えることを嫌がっていた新郎が急遽、最後に両家の親御様と新婦に、感謝と誓いを述べたのです。涙ながらの言葉は会場を感動で包み、後日新郎は「結婚式やってよかった。素直になれたし男になれました」と言ってくれました。

ご自身の言葉で感謝と未来への誓いを話す新郎。披露宴終了後には、「結婚式をやってよかった、こんな日じゃないと一生何も言えなかった」と語ってくださったそうです。

すべての想いを紡ぎ、諦めず後悔のない仕事をするために
あらためて今の時代に思うこと

 「結婚式は人生のターニングポイント。たくさんの想いをつなぐ場だからこそ人をも変える」。先輩から教わり、大切にしてきた言葉です。けれど奇跡は勝手には起きません。結婚式への想いとチカラを、熱意を持って紡ぎ合わせる存在が必要です。今の時代だからこそ私たちが叶えられることがあると信じ、プランナーとして共にたくさんのターニングポイントを起こしましょう。

評価のポイント

 新郎新婦双方の親から「なんとかしてほしい、お願いします」と頼まれ、「任せてください」と引き受ける。牧田さんにはそんな強さと、家族の間を流れる空気を機敏に感じ取る繊細さが共存しています。大小に引き合うたくさんの力を糸のように紡ぎながら、最後には新婦母へのプロポーズも引き出すような、奇跡の布を織り出されました。家族全体を包む慈愛あふれる眼差しと、人生のターニングポイントを自分の手で創り出すという熱意に心打たれました。