新婦と子どもの関係性、子どもの存在を受け入れられずにいた新郎。
2人が、選んだ道を今後も肯定して歩めるよう、未来へと繋げる結婚式
新卒でホテル雅叙園東京に入社。2歳の娘に「こんなママになりたい!」と思ってもらえるような人でいるためにも、何事にも挑戦中です。今一番したいことは東京以外で星を見ながら美味しいお酒が飲みたいです!
2人の空気に違和感を覚えた初回。
真実に迫る問いと全力で向き合う姿に、少しずつ心を開く新郎
見学に来た新郎は、まっすぐ私を見つめたままで無反応。ヒヤリングを始めてすぐに、どこか落ち着き払った2人が一切会話しないことに違和感を覚えました。正直逃げ出したい。でもこのサインは見過ごせない、と私は意を決して、話を聞いても無反応な新郎の気持ちに迫りました。「今日はなぜ来てくれたのですか?」
長い沈黙の後新郎は、交際から親への挨拶へと進み、入籍の際に新婦から子どもがいることを告白されたこと、それを受け入れられず未来があやふやな「事実婚」を選んだことを、話してくれました。溢れ出す、新婦やお子様への否定的な言葉。隣りで涙を流す新婦。気づけば私は、「なぜ大事な人が悲しむ言葉を選ぶのですか」と大粒の涙を流していました。2人に幸せになってほしい一心で話す私を、先ほどとは少し違う、助けを求めているようにも思える目で見つめる新郎。涙をためながら「これまで本気で向き合ってくれるプランナーさんはいなかった。このままじゃいけないことは分かっている。杉本さんが担当なら、けじめとしてここで結婚式をしたい」と話してくれました。
周囲への感謝と今後に向けた決意の言葉が並んだ新郎のスピーチ。
徐々に見え始めた優しい素顔
2人は披露宴で何もせず会話をする時間を希望していましたが、何かもっと必要なことがあると感じた私は、2人の想いに改めて耳を傾ける時間を作りました。新郎に一度は断られたウェルカムスピーチも、なんとか行うことに。長めの歓談タイムでは、事実婚に不安を感じる2人に、揃ってゲストの席を回ることを提案。夫婦の姿を見て嬉しそうなゲストの表情を、2人に見てほしかったからです。新郎が作成したウェルカムスピーチに並んだ、事実婚という形を尊重してくれる人たちへの感謝と、法律にも負けない家庭をつくるという決意の言葉……2人にとって、親交を深めるためのかけがえのない時間は、特別な演出よりはるかに大切なのだと感じました。
難航したのは、お子様の席。「子どもの姿が見えないようにしたい」という新郎に対し、私は問いを重ねることに。なぜ嫌だと感じるのかを突き詰めるうち、「母子の様子を見て自分の両親が悲しむから。子どもが自分になついていないから」という答えを導き出しました。自分の大切な人を想っての発言に、新婦は「本当は優しいんだ、この人ならこの先大丈夫」と嬉しそうな表情。新郎の本当の想いを知り、お子様の席を2つ設けることを提案して2人それぞれの納得感を引き出しました。
- ふたりの本当の気持ちに勇気を持って踏み込むことが明るい未来へ繋がる結婚式への道を開きました。
人結婚式が済んだら終わり、ではない。
その後につながる結婚式をつくるのが、プランナーの仕事
当日は、これから辛い時、立ち止まった時にも真っ先に何度も思い出す「3人の結婚式」であるといいなと願い、思いやりにあふれた温かな結婚式を見守りました。後日新婦が送ってくれたのは、結婚式当日まで頑なに「3人では撮りたくない」と言っていた新郎と新婦、お子様の一枚のスリーショット。3人が家族として未来に向かって進む一歩となった結婚式だったことを、実感させる一枚でした。
子育て真っ只中で仕事を制限せざるを得ない中、もっとやりたいと悩むことや、理想像と現実の自分とのギャップに苦しむ時もあります。それでもその在り方を受け入れ、今の自分を愛することが、結婚式づくりの原動力にもつながると、気づかせてくれた結婚式でした。
多様化が進む現代。選んだ道を肯定して歩めるよう、未来の2人に想いを繋げられるのは、プランナーだからこそ。互いを信じることができるお守りのような結婚式をつくっていくことが、私が選んだプランナーとしての道だと思っています。
- この結婚式で初めて実現した家族の3ショット。未来へ繋がる絆を象徴する1枚でした。
評価のポイント
結婚も法律婚だけではなく、事実婚など多様な形が見られるようになりました。杉本さんはどんな形であっても、2人が自分たちの歩む道を肯定できる、そんな結婚式づくりを目指し、高い熱量で取り組まれていました。「問いの力」によって、2人さえも気づいていなかった想いを引き出していくプロセスが美しく、掘り起こした本音を構成に上手に反映されていました。杉本さんが創り出した結婚式が2人の生き方にも大きな影響を与えていたように思います。