リクルートブライダル総研は、結婚に関する調査・研究、未来への提言を通じて、マーケットの拡大と社会課題の解決に取り組みます。

mix, melt, blend in

ふとした発言や表情の奥にあるのは、気づきが隠された本音。
感覚を研ぎ澄ませ、真の価値ある、形だけではない結婚式を創り続けたい。

工藤 ゆかり(くどう ゆかり)さん
ガーデンヒルズ迎賓館大宮(埼玉県)

【私が担当する意味。ただ挙げるのではなく、より人生が豊かになる結婚式のために】をモットーに、ウエディングプランナーとして、日々結婚式と新郎新婦のことを考え、提案の幅を広げている。

プランナーの「気づき」が生んだ
新婦両親へのサプライズ挙式・生き別れの母と新郎との心の交流

 結婚式はもともと新郎新婦の人生を変える力を持っています。そこに必要なのは、「幸せにつながる気付き」。でもほとんどの新郎新婦は、何が幸せにつながるのかを知りません。それを2人に変わって見つけるのが、プランナーの役割だと思います。例えば、2人の「特にないです」という言葉や変わらぬ笑顔に意味を感じられるかどうか。ここにこそ、2人の本音が隠されています。その本音を見つけるために、私は常に「自分だったら」と置き換えて考えます。私なら言いたくないことは笑ってごまかすし、言う必要がないことには「特に」と答えてしまうだろうな、などと想像します。ふとした発言や表情に疑問を持ち、そこに隠された本音を見つけられるかどうかがカギなのです。そして私は今回、3つの「気づき」をキャッチしました。

 最初の気づきは、新婦のお母様が打ち合わせでつぶやいた「いいなあ」でした。「いいなあ」は望みがかなっていない時に使う言葉です。新婦に聞くと、ご両親は結婚式をしていないとのこと。そこで、ご両親へのサプライズ挙式のプレゼントを提案しました。お父様もお母様も涙を流し、人生が豊かになる時間となりました。

 2つ目の気づきは、お母様の話題になると、終始笑顔ながらいつもとは違う新郎の様子でした。幼い頃に両親が離婚し、その後ほとんど会っておらず、招待もしない予定だったお母様。しかし聞いてみると、「大好きだけど自分は嫌われているはず」と、2人から同じ本音が返ってきました。お互い想っているのに、すれ違っていた母と子。何度もお願いを重ね、ついにお母様の参列が叶うことに。私が提案したのは、背中合わせでお互いに手紙を読むことでした。背中越しなら懐かしい温もりが感じられ、久しく会えていなくても、お互い長年の想いを素直に伝え合えると思ったからです。コロナ禍の影響で結局お母様は欠席となりましたが、新郎の希望によりオンラインで対面。想いを伝え合うことが叶いました。

新婦ご両親のサプライズ結婚式。新婦のドレス姿を楽しみにしているお母様が動揺しないよう、まずはファミリーミート。新婦からブーケを受け取るまで少しの時間を設けることで、心の整理がつくよう配慮しました。

なぜ謝辞を? という気づきから
いつものメニューが特別な一品に

 3つ目の気づきは、育ての親であるお祖母様に、謝辞を希望していた新郎の気持ち。なぜそう思ったのかを考え、新郎にとってはゲストの前でお祖母様は特別な存在だと伝えることが大事なのだと、気づきました。しかし、お祖母様との思い出を聞いても「特にない」という新郎。そこでいつもしてもらっていたことを聞くと、「ソーセージ入りのけんちんうどんを作ってくれていた」と返ってきました。新郎にとってはあまりに日常だった「ソーセージ入りのけんちんうどん」は、この瞬間からお祖母様との大切な思い出に変わりました。当日はこれを再現し、新郎がお祖母様に直接手渡し。感謝の気持ちを伝え、かつて自分がしてもらっていたように、お祖母様の肩をトントンと叩きながらハグ。お祖母様の目には大粒の涙があふれました。

20年ぶりに、オンラインでお互いの思いを伝え合うことができた新郎とお母様。育ての親であるお祖母様は、思い出の一品と、感謝を伝える新郎に感激。プランナーの気付きで、実現につながりました。

創り続けなければならない、「形だけではない結婚式」
大事なのは幸せにつながる気づき

 プランナーが介在する意味。それは、2人に感じてほしい「気づき」を見つけ、進行や声のかけ方、立ち位置などすべてを、丁寧に繊細に作り上げていくことです。

 2人が幸せにつながる気づきを得て、結婚式を思い返すたびに幸せだと思う瞬間が増える…そんな価値をもたらすのが、私が思う「形だけではない結婚式」です。コロナ禍で結婚式をしない人や、写真だけを残す人が増えました。悔しいけれど、これは形だけの結婚式しか知らないからだと思います。だからこそ私たちプランナーがこれまで以上に感覚を研ぎ澄まし、真の価値がある、形だけではない結婚式を創り続けなければならないと思います。

評価のポイント

自身では気づけない「本当に大事なこと」を、プランナーがどう感知すればよいのか、工藤さんはその大切な「方法」を惜しみなく伝えてくれました。また、その気づきをどう結婚式のプランニングに反映していくかも大切なポイント。人々の感情の機微を、共感力と想像力を持ってトレースし、緻密に空間と時間と演出を構成していく。このきめ細やかなプランニングの積み重ねこそが「形だけじゃない結婚式」を生むのだと確信しました。